本庶佑・京都大特別教授 (c)朝日新聞社
本庶佑・京都大特別教授 (c)朝日新聞社
香取秀俊・東京大教授 (c)朝日新聞社
香取秀俊・東京大教授 (c)朝日新聞社
遠藤章・東京農工大特別栄誉教授 (c)朝日新聞社
遠藤章・東京農工大特別栄誉教授 (c)朝日新聞社
藤嶋昭・東京理科大学長 (c)朝日新聞社
藤嶋昭・東京理科大学長 (c)朝日新聞社

 2018年も様々な人たちが活躍し、たたえられる年になりそうだ。中でも注目は毎年秋に発表されるノーベル賞。14年から3年連続で日本人が取っていたが、昨年は残念ながら受賞者は出なかった。とはいえ世界的に注目される研究者は多く、今年は再び取る可能性が高い。自然科学系の候補者について、毎年ノーベル賞に関するイベントを行っている「日本科学未来館」(東京都江東区)の科学コミュニケーション専門主任・詫摩雅子さんに聞いてみた。

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 まず筆頭に挙げられるのは、医学生理学賞の可能性が高い本庶佑(たすく)・京都大特別教授。これまでのがん治療薬はがん細胞に直接働きかけ、がん細胞が増えるのを抑えるものであった。だが、人によっては下痢や脱毛などの副作用が強く出たり、効果が弱かったりする問題もあった。本庶氏は、人が持つ免疫機能に注目し、免疫機能を正常に働かせる新たな治療薬の開発につなげた。

「実際に使われており、これまでの抗がん剤が効かなかった人や副作用が出てしまった人にも治療の選択肢が増え、とても意味があります」(詫摩さん)

 物理学賞では香取秀俊・東京大教授に期待がかかる。300億年に1秒しかずれないほどの高精度な時計「光格子時計」を開発した。詫摩さんは「人の想像力を超える精密な時計で、地下にある資源を発見するセンサーなど、時計以外に活用できることが面白い」という。例えば、地面の下に金属の鉱脈があった場合、重さに比例して重力が強くなり、ほんのわずかだが時間の進み方も遅くなる。時の流れが変わる場所がわかることで、鉱脈の発見につながる可能性があるのだという。

 また、現在、世界標準の時計として使われているのは1967年に採用された「セシウム原子時計」。誤差は3千万年に1秒程度といわれている。19年に開かれる国際度量衡総会で「光格子時計」が新しい世界標準の時計になりそうだと期待されている。

 化学賞では、遠藤章・東京農工大特別栄誉教授と藤嶋昭・東京理科大学長が有力候補だ。遠藤氏は、コレステロールを下げる薬「スタチン」の主成分となる物質を発見した。コレステロール値が高いと動脈硬化につながる恐れがあるが、食事を見直しても下がらない人もいる。これは食べ物からの摂取だけでなく、肝臓でもコレステロールが作られているためだ。スタチンはこの肝臓でのコレステロール合成を抑える効果がある。詫摩さんは「日本だけではなく世界中で飲まれている薬」と評価する。

 藤嶋氏は光触媒(酸化チタン)を開発した。特殊な塗料などに使われており、光が当たると汚れを分解する効果がある。さらに、水となじみやすい性質があり、汚れを浮かせて流してしまう作用がある。「セルフクリーニング効果」と呼ばれるものだ。体育館の屋根、建物のガラスなど様々な場所で活用されている。

「大きなビルなどは外壁を掃除するのも大変。中国最大級の『国家大劇院』という劇場で使われています。ドーム形の美しい形ですが、黄砂や大気汚染ですぐに汚れそうと北京市民から心配の声があったそうです。ですが、ピカピカのままなのだとか」(詫摩さん)

 実際に受賞するのは誰か。今年も秋の発表が注目だ。(本紙・吉崎洋夫)

※週刊朝日オンライン限定記事

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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