対立意見に触れる機会を提供する試みは、ワシントン・ポスト紙以外でも進んでいる。同紙のライバル紙である米ニューヨーク・タイムズ紙のコラム「ライト・アンド・レフト・リアクト」は、特定のトピックが右派・左派の双方からどのように論じられているのかをまとめている。英ガーディアン紙の「バースト・ユア・バブル」は、保守層あるいは極右勢力の視点からの論説をキュレーション(まとめて表示)している。

 そんななか、カウンターポイントがユニークなのは、人力ではなくAIを活用し、反対意見を主張する論説を、自社の記事から選定している点だ。実際の編集者の記事へのタグ付け作業を、学習用のデータとして利用し、AIをトレーニングしているという。

 主にリベラル紙を中心にこのような取り組みが進んでいるが、その背景には、ほぼ全てのメディアが予想していなかった英国のEU離脱決定や、ヒラリー・クリントン候補の勝利を確信していた昨年の米大統領選挙の反省がある。インターネット──とりわけソーシャルメディアは、自分の考えに近い意見ばかり目にする「フィルターバブル」の影響力が年々大きくなっており、自らの政治的信念に合致するメディア、ニュースばかりを閲覧する消費者が増えている。ネットで対立意見に触れる機会が減ったことで、多くのネットユーザーの政治的信念が強固になり、その結果として現在の政治的分極化、社会的分断が生じていると欧米のリベラルメディアは考えているのだ。

 リベラル紙が保守的な意見を積極的に掲載するのは皮肉な話だが、社会的分断の解消のためには、たとえ読者の意にそぐわない意見であっても伝える必要に迫られているということなのだろう。これらの取り組みが欧米でどれだけ分断の解消につながるのか、今後の展開に注目したい。

週刊朝日  2017年12月1日号

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