バーでドリンクに睡眠薬などを混ぜられ、意識を失った女性が暴行を受ける。そうした薬物は「レイプ・ドラッグ」と呼ばれる。だが、昼間の打ち合わせの飲み物に薬を盛られることを、誰が想像するだろうか。被害女性が一部始終を告発する。
7月31日、東京地裁104号法廷。Tシャツと短パン姿の小林光男被告が被告人席に座っていた。
「被告を懲役5年とする」
裁判長の判決を耳にした小林被告は「え?」と驚いたように顔を上げ、呆然(ぼうぜん)とした表情を見せた。
当時27歳だった美樹さん(仮名)に睡眠薬を飲ませて暴行したとして、準強姦(ごうかん)の罪に問われ、実刑判決が下されたのだ。
美樹さん側の村田智子弁護士が振り返る。
「準強姦や強姦事件は、大半が法廷まで上がらない。被害者が泣き寝入りさせられることの多い犯罪です。そのなかで実刑を勝ち取った意味は大きい」
美樹さんはなぜレイプ被害に遭ったのか。
当時、美樹さんは企業のホームページなどを作成するウェブ関係の会社に勤めていた。2015年9月4日午前10時。美樹さんは小林被告が経営する都内の土木関連会社を訪ねた。
「オフィス兼自宅の戸建て。奥さんと暮らし、事件後子供も生まれたそうです。残暑が厳しい日で、駅から20分歩いた私は、汗をびっしょりかいていました」
会社の応接室に通されると、冷たいコーヒー牛乳を注いだグラスが出された。美樹さんは、のどもカラカラ。ひと口飲むと小林被告は優しげに、
「ああ、飲んでいいよ」
と促した。30代前半の小林被告は100キロ近い体躯。初対面だが、“気さくなオジサン”の印象である。インターホンが鳴り、小林被告が中座した。美樹さんは「甘くておいしい」と、一気に飲み干した。意識がフワフワとして時間の感覚も飛んだ。
「行くよ」
小林被告の声が聞こえた。目を開けると、応接室の床に寝ていた。力が入らない。
「どうしよう。仕事で来ているのに」
ふらつき尻餅をついた。促されるまま小林被告の車に乗った。
気がつくと、ラブホテルの看板の前にいた。時刻は夕方の5時ごろ。混乱の中、建物に引きずり込まれた。
部屋で暴行を受け、「私、殺されるのかな」。まだらな意識で思った。