「私は競争相手ではないと思っていました。大塚家具に来られたお客さまによく説明して、今回はニトリさん、イケアさんで買っても、次は必ず来てくれるよと。そういう経営をしていましたから。でも大塚家具は競争の激しいところに入っていった。大塚家具しか持っていないものがあったのに。私の立ち上げた匠大塚は、大塚家具よりさらに上の価格帯だと見られています。そこがちょっと苦労してるところです」
経営権を巡る争いも、一部の株主や金融機関に久美子氏は「利用された」とみている。争いをきっかけに、家族としてのコミュニケーションもなくなったという。
「経営権の争いで得をしたのは、外資系ファンドなどほんの一部。一番気の毒なことをしてしまったのは大塚家具のお客さま。大塚家具で買うことを自慢にして下さっていたのに、それが私は一番、申し訳ないと思う。社員もそうだと思います。でも、あれしか方法なかったんです、私は」
大塚家具と匠大塚との業務提携や、経営復帰の可能性は否定する。一方で、久美子氏については、「親子ですから」と心配する表情を見せた。
「こうなってしまったら頑張っていただきたい。健康に気を付けてほしいです」
いまは匠大塚の事業に集中しているという。百貨店との協業にも前向きだ。
「商品をそろえるのもなかなか難しかったです。『順調ですか』と聞かれますが、もう少し待っててください。ここまでするのが大変だったんです。これからどんどん、販促もしていきます。
百貨店さんに家具を扱ってもらえるよう動いています。なぜかというと、百貨店さんに家具がないんです。我々の年代になると、やっぱり買うからには近くで買いたい。そうすると百貨店さんなんです。なんとか百貨店に家具売り場を戻してもらいたい。昔は競争してましたが、百貨店さんがやってくれないと、家具業界がダメになってしまいます」
一代で築き上げた会社を離れたことは、こう振り返る。
「寝ずに働いてあそこまでしたわけですから、今でも悔しいです。あの時は、もうあれで終わりだなと思ってました。大塚家具の株は全部処分して、もう諦めて完全に切りました。ただ、辞める社員の受け皿のためにも、匠大塚を立ち上げました。家具業界を守るために、私も頑張るしかありません」
(本誌・小泉耕平)
※週刊朝日限定オンライン記事