他の収録曲はいずれもカヴァー作品だが、グレッグの歩みを振り返る自伝的な選曲になっている。
たとえばティム・バックリーの「ワンス・アイ・ワズ」。グレッグは長年ティムのファンだった。この歌を人前で歌ったことはなかったが、ひとりひそやかに歌い続けてきたという。恋人への追憶を描いた曲だ。7度の結婚歴を持つグレッグが、過去に出会った恋人や妻たちへの思いを込めたに違いない。
ボブ・ディランの「ゴーイング・ゴーイング・ゴーン」は、“このページで本を閉じて”と、それまでの人生を断ち切り、新たな旅立ちの決意を語った歌だ。グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアとロバート・ハンターによる「ブラック・マディ・リヴァー」も人生の歩みをテーマにしている。
2曲とも渋い選曲だ。いずれもカントリー、フォーキーなテイストに満ちた演奏で、グレッグの抑制の利いた歌いぶりが印象的だ。グレッグとグレイトフル・デッドの交流はアワーグラス時代に遡る。ジャム主体の演奏などグレイトフル・デッドからの音楽的刺激はオールマン・ブラザーズ・バンドにも反映されてきた。
そこから一転し、「アイ・ラヴ・ザ・ライフ・アイ・リヴ」は豪快なブギ・ブルース。歌声もパワフルで、ブルースに賭ける心意気、ヴォーカリストとしての本領を発揮してみせる。
ローウェル・ジョージが作曲したリトル・フィートの「ウィリン」は、トラック・ドライヴァーへの賛歌であり、アメリカの南西部を旅する放浪の歌でもある。歌詞には“葉っぱ、白いヤツそしてワイン”という一節がある。思えば、グレッグは長くドラッグとのかかわりを断てなかった。
ニューオーリンズの雰囲気たっぷりの「ブラインド・バッツ・アンド・スワンプ・ラッツ」は、ドクター・ジョンを思わせるヴゥードゥー的な怪奇さも漂わせる。R&B/ソウル・シンガーのジョニー・ジェンキンズのレパートリーだったが、ジョニーのセッションにはデュアンが参加していた。しかも、本来はデュアンのソロ・アルバム用に準備されていた。そのセッションをきっかけにオールマン・ブラザーズ・バンドが結成されたという話を知れば、大いに納得のいく選曲である。