漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、「ひよっこ」(NHK総合 月~土曜8:00~ほか)について語る。
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朝ドラに灯る危険シグナル。それは、座って語り出す。やたら回想する。いきなり歌い出すの三つなんである。そう、それは脚本ギリギリなんじゃない?というシグナル。
座って語るシーンが増えるのは、ロケしてる時間がないから。会話だけなので
中々ストーリーが展開しない。よし、回想入れておこう。それでも尺が余ったら、とりあえず歌おう(「べっぴんさん」でよく見た光景)。もしかして、そんな事態が起きてるんじゃないかしら、うふふ……なんて妄想しちゃう近頃の「ひよっこ」だ。
行方不明の父親・実(沢村一樹)が戻ってきたと思ったら、これまでのお話をすべて説明してくれる勢いで続く回想シーン。それが落ち着くと、今度は座って語る女子会に次ぐ女子会。そして突然、和菓子屋の息子ヤスハル(古舘佑太郎)の懐メロワンマンショー。て、全然話進んでないじゃないかーっ。と、そんな時、ヒロインみね子(有村架純)をモデルにした漫画を描いている2人組(浅香航大、岡山天音)が、こう言った。
「どうもここんとこ、ちょっこす中だるみっちゅうか」
「地味っちゅうか」「そろそろ新しい恋をした方がいいんでないかと」て、何だこれ。まさにNHKの制作から脚本家に「今後についてちょっと……」と、かかってきた電話みたいなセリフ。
思えば、ナレーションの増田明美さんも「朝ドラには変なおじさんがよく出てきますよね」とか、「朝ドラ名物の立ち聞きですね」なんて言っていた。常にセルフつっこみありという自問自答式朝ドラ?
もしや座って語って回想して歌い出すのだって、意図的にやってたりして。ほ~らご存知、朝ドラ名物「中だるみ」ですよって。などと、見てるこっちも自問自答してしまう恐るべし「ひよっこ」。
そもそも朝ドラなのに、ヒロインみね子は半年たっても妻にもならず、母にもならず、店も開かず、パティシエにもアイドルにも海女にもならず、「3番さん、ハッシュワンでーす」と、ただただ毎日を真面目にちゃんと生きている。
朝ドラヒロインにありがちな大きな夢や志を持たなくとも物語は続く。史上最も平凡で地に足のついたヒロイン。人生は中だるみの繰り返しと積み重ね、そんなことをふと思ってしまう「ひよっこ」なのだ。
※週刊朝日 2017年9月8日号