警察庁が75歳以上の運転者による死亡事故の人的要因を調べたところ、ハンドルやペダルなどの不適切な操作が28%を占めた。漫然運転などの前方不注意23%、安全不確認22%と続く。

 また、事故に関わった第一当事者の認知機能検査結果を確認したところ、検査を受けていた425人のうち、8%の34人が「認知症のおそれ」と判定されていた。同じく約42%の180人が「認知機能低下のおそれ」があったという。

 今年3月施行の改正道路交通法では、認知症対策が強化された。75歳以上を対象に免許更新時の講習を充実させたほか、免許更新時や信号無視などの違反時に、認知機能検査を受けることを義務づけている。

 75歳以上の免許保有者数は、16年末時点で513万人。警察庁は20年に600万人になると推計する。高齢者の運転適性判断や相談にきめ細かく対応することが、今後ますます重要な課題になる。そこで、多くの県警が看護師や保健師ら認知症の専門知識を持つ人材を免許センターや警察署に配置し始めた。

 和歌山県警は昨年4月から、免許発行や管理業務を行う交通センターに、保健師の女性職員1人を配置している。高齢運転者の相談に当たるほか、認知症や薬の専門知識をほかの職員と共有する。運転免許課の畑内利彰次席は「交通センターの役割は今後大きくなる。認知症に悩む本人だけでなく、家族や健康な高齢者にも寄り添いたい」と話す。

 民間企業も事故防止の新たな取り組みを進めている。

 三井住友海上火災保険は、高齢者らが高速道路を逆走したり、指定区域外を走行したりした際、家族にメールで知らせるサービスを自動車保険に組み入れる。18年3月末までに発売する新たな保険で、月額数百円の特約保険料を払えばサービスを受けられる。専用車載器からデータを受信し、リアルタイムで走行状況を把握。親と離れて暮らす人にとっては安心だ。

 実は、筆者の父(77)も離れて暮らしており、現在もハンドルを握り続ける。バスの運転手をしていたから運転に自信を持つが、家族としては事故を起こさないか心配だ。一方で、免許返納は父の矜持を奪うことになるのではとも感じる。

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