監督を引退してからも、取材中のテーマについて意見を聞きたくて、東京の自宅で続けていた早朝散歩をご一緒したことがある。アポなしでも「おう、どうした」の一言で迎えてくれた。歩くスピードは変わらない。町のあちこちで「監督」と声をかけられて、きさくに手をあげてこたえていた。
葬儀のあいさつで長女が2010年の誕生日に贈られたカードの話をした。
「そこには山上憶良の『金銀の宝よりもまさる子ども』についての歌が書かれていたのですが、カッコして(親も)と書いてありました。まじめな中にもユーモアたっぷりな父らしいカードです。歌のとおりに私たちだけでなく、7人の孫一人ひとりをほんとうにかわいがってくれました」
カードとともに斎場に飾られた孫と一緒の写真には、グラウンドの勝負師の顔とは別の、やさしいおじいちゃんの顔があった。
※週刊朝日 2017年7月21日号