昨年12月には、有識者会議が特例法での退位を提言しようと動いていた。私たちは官邸から依頼され、独自に政府提案の土台となる議論をしていたわけで、国会の動きとは別に進めればいいと思っていたが、簡単に事は進まなかった。

 私が司会をつとめるテレビ番組「時事放談」(TBS系)にゲストとして政治家も出演しますが、与野党問わず有識者会議に触れ、「一生懸命やるのはいいが、国民に選ばれているのは私たちだから、勘違いしないように」と釘を刺される。決定的だったのが、私が12月下旬に各紙の取材に応じて、「特例法で大体の方向性は決まっている」と言及したときでした。大島理森衆院議長は「国会は有識者会議の下請け機関ではない」と反応した。官邸ですら、政治家がそこまでの反応を示すとは思っていなかったのではないか。

 この時期、陛下の同級生である明石元紹さんがメディアに登場し、「陛下が電話で、退位について恒久制度を望む思いを打ち明けた」と話しました。実は、人を介して明石さんから、「話したい」と打診がありました。しかし、我々メンバーが関係者と会えば、問題になる。丁重にお断りしました。それ以降もお会いはしていません。

 この6月、我々の報告書と同じ方向性で特例法は成立しました。陛下のお言葉が公表された昨年8月からわずか10カ月というスピードで進んだのはよかったと思います。天皇陛下皇室の在り方の議論をできるようになり、皇室と国民の距離が最大限に近づいている今、皇族の数の減少に対処する女性宮家の創設について議論する最大のチャンスです。ぜひこのまま続けてほしい。

 昨夏、天皇陛下のお言葉を耳にしたとき、私は「微妙だな」とも感じた。天皇と政治的行為を考えたとき、土俵から足が出るかどうかの境界線だと思ったからです。退位問題における有識者会議の役割は、そこに「国民の総意」というクッションを置くことでした。

 平成の天皇は約30年にわたって平和を祈り、人々とともに歩み、象徴としての活動を続けたわけですが、近代国家における象徴としての天皇像がきちんと描かれていないという現実を突きつけられたのだと思います。

 だからこそ象徴天皇制の中で、新天皇がどのような皇室像をお持ちなのか、国民も新たな皇室の行方を見守っているはずです。

週刊朝日  2017年6月30日号

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