ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ウェブ記事を信頼するかどうかについて人は何をよりどころにしているのか、ある調査を紹介する。
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米国のみならず日本でも猛威を振るうフェイクニュース。この問題を考える上で参考になる調査研究リポートが3月20日に公開された。リポートを作成したのは、アメリカン・プレス・インスティテュート、AP通信、シカゴ大学全国世論調査センターの3組織が共同で立ち上げたプロジェクト「メディア・インサイト・プロジェクト」。ソーシャルメディア上でシェアされて伝わるニュースの信頼度を、人々がどのような基準で判断するのか「媒体名」と「シェアした人」という切り口から調査した。
調査にはAP通信が専門家に依頼して書いてもらった信頼性の高い医療記事が使われた。実験参加者の画面にはその記事がフェイスブックでシェアされているような形式で表示され、「その記事をクリックして読み、内容をレビューしてください」という指示が出る。媒体による信頼度の変化を調査するため、あるグループには出典がAP通信の記事として表示され、別のグループには「デイリー・ニュース・レビュー」という架空のウェブメディアの記事として表示された。
加えて「誰がシェアしたのか」という要素が信頼度に影響を与えるのか調べるため、人気番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」の司会を務めるオプラ・ウィンフリーや、人気健康番組のアンカーマンを務めるドクター・オズなど、フェイスブック上でヘルスケアの情報を日頃から発信している8人の著名人が選ばれた。実験参加者にはこれら8人に対する信頼度があらかじめ調査され、参加者たちの画面には8人の著名人たちが医療記事をシェアしているように表示された。
「信頼できる有名人がシェアした知らないソースの記事」が表示された場合と「信頼できない有名人がシェアした信頼のおけるソースの記事」ではどうか。結果は前者が圧倒的に支持され、信頼度で後者と倍近くの差がついたというから驚きだ。ソーシャルメディアの世界では、そもそもの情報の“発信者”より“紹介者”のほうが情報の重み付けを決めていることになる。
ウェブの世界では「自分が一度信じた人が流す情報は本物である」という先入観が生じやすい。だからフェイクニュースが信頼のおけるメディアから「明らかなデマだ」と否定されても信じる人が減らないのだ。発信力のある「個人」を自らの組織内に増やしていかなければ、マスメディアの存在感は低下していく一方だろう。
※週刊朝日 2017年4月14日号