東芝が危機的状況に陥っている。ジャーナリストの田原総一朗氏はその原因のひとつ、原子力部門について解説する。

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 東芝が、2月14日に予定していた昨年4~12月期の連結決算発表を、なんと当日になって急きょ先送りにする事態となり、志賀重範会長が辞任することになった。大企業ではあり得ない事態だ。社長など経営中枢もつかんでいなかった次のような問題点が、決算発表の直前に露呈したのだという。

●米国での原子力事業をめぐる損失が7125億円
●昨年の4~12月期の純損益が4999億円の赤字
●昨年12月末時点で債務超過(自己資本マイナス1912億円)

 そして決算の発表は最長で1カ月延期すると発表した。だが、1カ月後、つまり3月14日にはとても発表できる事態ではない。東芝は、率直にいえば倒産寸前の状態なのだ。

 東芝は、日本の一流企業の代表のような存在であった。かつて東芝の社長だった土光敏夫氏は、経団連会長となって財界総理と称された。その東芝が、なぜこのような無残な事態となってしまったのか。

 実は、東芝は2009年に不正会計に手を染めはじめ、15年に発覚するまで、社長が3代、7年間にわたって隠蔽(いんぺい)を続けた。言ってみれば粉飾決算だ。これも、あるまじき事態だが、粉飾をするとは業績が悪いということでもある。いったいなぜ業績が悪化してしまったのか。

 東芝は、西の松下電器(現パナソニック)とよく比較されるが、松下電器の泥臭さに対して、東芝は技術力でも企業イメージでも、洗練された企業である。

 東芝の業績が悪化した原因は、06年に米国の原子力企業ウェスチングハウス(WH)社を買収したことだ。現在実用化されている原子炉には沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の2パターンがあって、東芝と日立はBWRで、PWRは三菱重工だ。だから本来、PWRのWH社を買収すべきは三菱重工なのだが、三菱重工が2千億円から3千億円と見積もっていた買収額をWH社は6600億円とふっかけ、東芝がWH社を買収した。米国、欧州をはじめ、世界中で建設が進んでいたのはPWRが圧倒的に多く、BWRの東芝は焦っていたのだ。

 
 三菱重工の見積もりの2倍以上での買収に東芝社内でも不安視する声があったようだ。08年、WH社は米国で4基の原発を受注したが、11年3月の福島原発事故が発生した。そのため、原発の安全性に対する世界の目が厳しくなり、建設コストが高騰し、建設も大幅に遅れることになった。従来は1基が5千億円程度であったコストが、7千億円以上に膨れ上がってしまった。そして、建設コストが膨れ上がった部分は原発建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)社が負担することになっていたのだが、東芝は、その実態を知ってか知らずか、WH社がS&W社を買収しているのである。

 15年に粉飾決算が露呈した段階では、東芝の社長など経営中枢は、S&W社の巨額の負担金についてはまったく知らなかった。原子力部門が隠蔽していたのだ。

 そのことが露呈したのは2月14日に予定していた決算発表の直前であり、だから、決算発表は先送りとなり、原子力部門にかかわっていた会長が辞任することになったのだ。だが、いまや原発は不採算事業であり、日立も三菱重工も少なからぬ痛手を負うことになるはずである。

週刊朝日  2017年3月24日号