カムバック・イン・ボストン
カムバック・イン・ボストン
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帰ってきた帝王、ボストンでジャーン
Comeback In Boston (Sapodisk)

 あくまでもマニア主体の世界ながら、ブートレグが市民権を得、ごくごく日常的に話題に上るというか、あまりに当たり前すぎて逆に話題に上ることが少ないというべきか、ともあれそのような状況をいいことに「売り文句と内容がともなわないヤラセ盤」がまた目につくようになってきた。いわゆるブート初心者を狙い撃ち、あるいはマニアが「買うだけで聴かない人種」であることにつけこんでのトホホ商法、しばらく姿を消していたと思ったら、おいおい。かつてこの種のヤラセ盤はロック物と決まっていたが、昨年あたりからマイルス物も急増、注意を要する。最近ではフィルモア・ライヴ(70/3/6)がコンプリートと銘打って登場したが、すでに出ている音源をコピーしただけのもの。

 また「別ソースで最高音質しかもプレス盤」「ピッチも正確」という触れ込みの音源が、じつは既発盤の速度を少しだけ落としたものとか、既発盤と演奏時間も音質もまったく同じものだったりと、そうとうに面倒なことになっている。前述した「マニアは買うだけで聴かない」ことを見抜き、しかも「他レーベルから出たものや既発盤といちいち比較して聴かない」したがって「ウソをついてもバレない」との読みからトホホなブツをリリース、こちらはこちらで困った物件が相次いでいる。この場合、とくに厄介なのは、そうしたブツをつかまされた被害者が自分が被害に遭遇したことに気づかないことで、うーん、悪いことを考える人間は後を絶たないということだろうか。

 さてこのライヴは1981年11月4日、奇跡のカムバックをはたしたマイルスがカムバック・バンドとともにボストンはブラッドフォード・ホテルでくり広げたカムバック・ライヴを収録した2枚組。いささか"カムバック"という言葉を躍らせすぎたきらいはあるが、ファースト・セット3曲、セカンド2曲をドッカンと聴けば「やっと帰ってきた感」は天井知らずの勢いで盛り上がり、ついつい"シェーン"ならぬ「マイルス、カ~ムバ~ック」と叫んでみたくなる。もっともマイルスは叫ぶまでもなくこうして帰ってこられたわけですが。

 冒頭の"ジャーン"からいつもの《バック・シート・ベティ》に突入するが、そこに至るまでのキーボード叩きがじつに雰囲気があってたまりません。オーディエンス録音なのだろうが、位置がよかったのか、音像もバランスもナマに近く、これは81年カムバック盤のなかでも上位に置いていい。マーカス・ミラーのガチガチ・ベースも怪しく、鮮明。

【収録曲一覧】
1 Back Seat Betty
2 My Man's Gone Now
3 Aida
4 Fat Time
5 Jean Pierre
(2 cd)

Miles Davis (tp, key) Bill Evans (ss, ts, fl, key) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)

1981/11/4 (Boston)

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