ひばりとの出会いは、石井がプロデュースした64年放映のひばり主演のドラマ「下町の空」。その後も石井が手がけたドラマに何度も出演してくれた。
ある日、石井のマンションの呼び鈴が鳴る。インターホン越しに「和枝よ」との声が聞こえた。石井が笑いながら述懐する。
「私、『和枝』って誰だか全然わからなかったの。だから、『どちらさまですか?』って言ったら、今度は、『加藤よ』って」
加藤和枝という本名を名乗ったひばりは言った。
「お弁当作ってきたのよ。あなたは好き嫌いが多いから。そんなことではダメよ」
中にはカボチャの煮物。
「カボチャの嫌いな私に、どうしても食べさせたいと思って、と。ご自分で煮られたのでしょうか。おそるおそる箸をのばすと、それがすごくおいしくて。以来、カボチャが大好きになったんです」