「口数は少なくもなく、多くもなく、現場に静かに溶け込んでおられる方でした。冷静沈着ですてきな男性という記憶です」
映画「ツィゴイネルワイゼン」に出演した大谷直子さんは、2月13日に亡くなった映画監督の鈴木清順さんをしのんで、そう語った。鈴木さんは93歳だった。
作品は、独特な色彩感覚の映像美で知られ、「東京流れ者」「けんかえれじい」などが日活時代の代表作。しかし、1967年の「殺しの烙印」をめぐって日活と対立し、映画界を追われ、監督人生は決して順風満帆ではなかった。10年の時を経て映画界に復帰すると、80年発表の「ツィゴイネルワイゼン」はベルリン国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、世界的な評価を得た。
鈴木さんは白ひげを蓄えた個性的な風貌と穏やかなたたずまいで、映画人から親しまれた。冒頭の大谷さんもその魅力に引き込まれた一人だ。一人二役という難しい役柄だったが、鎌倉で撮影された現場の雰囲気が忘れられないという。