<もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな>
歌手の宇多田ヒカルさんをTwitterで呟(つぶや)かせたのは、音楽業界で長年くすぶる著作権を巡る対立だ。
JASRAC(日本音楽著作権協会)は、音楽教室でお手本で楽曲を弾いたりピアノなどを練習したりする行為を、コンサートや演奏会と同じとみなし、著作権料として授業料の最大5%の支払いを求めている。
JASRACが、「支払いの要請は2003年から。今夏、文化庁に申請し、来年1月から徴収」と宣言すれば、ヤマハ音楽振興会など大手7企業・団体が「音楽教育を守る会」を結成。「楽曲の練習を『演奏会』と同じとするのは納得できない。教材やCDにも著作権料は含まれ、十分に支払っている」と対抗する。
ターゲットは約9千の大手音楽教室だが、将来的には個人の教室も支払いの対象になる模様だ。
宇多田さんが漏らした、学びへの障壁になるという不安。実は、あながち杞憂(きゆう)でもない。報道によれば、2月のJASRACの懇親会で、浅石道夫理事長は「音大や専門学校は当分の間は保留」と漏らしたという。JASRACに確認すると、「今のところ考えていない」と回答したが、今後、徴収が及ぶ可能性はゼロではない。
著作権問題に詳しい福井健策弁護士も警鐘を鳴らす。
「たとえば図書館など、受益があっても著作権が及ばない利用もある。だがJASRACの言い分が認められると影響は大きい。JASRACが管理する楽曲を無断で教えると、すべて著作権侵害になってしまう」
解釈が拡大されると、講座などでの朗読や演劇の戯曲の練習もNG。振り付けを習うヒップホップダンス教室も著作権侵害になるという。
シンガー・ソングライターの佐藤龍一さんは1月、父の葬儀で父が好きだった曲を流したいと葬儀屋に希望したが、かなわなかった。
「著作権に関わると断られました。JASRACの解釈は人々を音楽から遠ざけてはいないでしょうか」
※週刊朝日 2017年2月24日号