パワハラ、セクハラ、いじめ……そしてうつ病となり、自殺に追い込まれてしまった電通の新入社員・高橋まつりさん(当時24)。昨秋、労災が認定され世間に大きな衝撃を与えた。まつりさんの母、幸美さん(54)は初めてインタビューで、その悲痛な思いをジャーナリスト・今西憲之氏に語った。
12月13日、東京でまつりさんと最後のディナーとなってしまったこの日。幸美さんは今でも繰り返し思い出すという。
「ミュージカルを見て、夜、ごちそうしてくれた。表面的には大丈夫かなと思っていました。でも、ご飯を食べた後、日曜日にもかかわらず『会社に戻って仕事しなければならない』と話していました。その後ろ姿が忘れられない」
そして、2015年12月25日の早朝、幸美さんはまつりさんのメッセージで目が覚めた。
<わたしの大好きで大切なお母さん、さようなら>
<死のうとしたけどだめでした>
そう書かれていた。すぐに幸美さんはまつりさんに電話した。
「死んじゃ、ダメ」
幸美さんが懸命に説得するとまつりさんは、「うん、うん」とうなずきながら、聞いていた。
午後4時、幸美さんに警察から電話が入った。
悲報だった。夜7時半、東京に幸美さんは駆け付けたが、まつりさんはすでに帰らぬ人となっていた。
「まつりはいつも『ママちゃん』と呼び甘えて、小さい私を抱きしめてくれる。抱きしめることができない、まつりがいない、死んでしまったなんて……」
幸美さんはただ涙にくれた。
まつりさんのツイッターやメールからも、自殺の原因は、異常な長時間労働であることは明らかだ。
いったい、どんなにひどい勤務だったのか。このままでは、まつりさんが浮かばれないと、幸美さんは立ち上がった。
「まつりがなぜ自殺にまで追い込まれたのか。『自殺が一番の親不孝』とまで言っていた。電通という巨大な相手は怖かったが、まつりの名誉のために闘うことに決めました」