「慰安婦像」設置で、さらに悪化する日韓関係。作家の室井佑月氏は韓国と揉めることで得する人間がいると指摘する。

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 韓国・釜山の日本総領事館の前に「慰安婦像」が設置された。このことで、この国は駐韓大使を一時帰国させた。1月19日には、安倍総理と岸田外務大臣が協議して、

「帰任の条件は整っていない」

 としばらく韓国に戻すことを見送る方針を決めたんだとか。

 日本政府は、大使を韓国に戻す条件として、慰安婦像撤去に前向きな対応を取ることや、日韓合意の順守を明確に打ち出すことなどを求めているみたいだ。

 慰安婦像を巡って、この国と韓国の喧嘩を煽るような番組が流れている。

 韓国でもおなじことが行われている模様。

 いいのかね? このまま仲たがいしていて。この国も韓国も北朝鮮になにかあれば、アメリカさんの力を借りて連携して対応するんじゃなかったっけ?

 てか、この国と韓国が揉めるのは、誰が得?

 ニュースを見ていると、ちゃんと得をしている人がいるのがわかる。

 喧嘩を煽る両国の議員さんらだ。

 お隣の国に暴言を吐いて、勇ましいことをいうと票が伸びたりするんだもの。で、勇ましいことをいう人が愛国者に見えたりするからタチが悪い。

 いつまで、ナメたナメられたというヤンキーみたいなガンの飛ばし合い(喧嘩ですらない)をしているんだろう。

 普通に考えりゃ、両国とも、「戦争って嫌だね」「女性を奴隷みたいに扱うことも嫌だね」って話でさっさと決着しないか?

 でも、そんな簡単に決着しないんだな、これが。

 揉めといたほうが得する人がいるし、そういう人に騙される人もたくさんいるから。

 ほとんどの人間が戦争を起こす側じゃなく、確実に巻き込まれる側だ。巻き込まれたら、一巻の終わりだよ。

 両国の議員が今の自分の立場を巡って、勇ましいことをいいたい放題にいっている中、一般人たちが、

「あいつらなにやってんだ」
「もうそういうパフォーマンスはいいから、自国の問題をなんとかしろよ」

 とならないのはおかしい。

 
 両国とも生活格差が広がり、増える貧困者が問題となっている。そのくせ、安全保障の関係から、米国のいいなりで武器を高い値段で買わされていたり。

 そういった国民の不満が隣国に向いてくれるなら、権力者にとってこれほど都合が良いことはないよなぁ。

 最後にもう一回いっておこう。

「戦争は嫌だ」
「女性を奴隷のように扱っちゃいかん」

 両国の戦争に巻き込まれる側の、大勢の人のほんとの声はこれでしょう。

 両国の戦争に巻き込む側にいる人たちの立場を慮(おもんぱか)って、煽りに煽りつづける両国のメディアもゲスい。

 メディアが過剰に取り上げなければ、議員らのパフォーマンスにならないのだから、こんな大事にはならなかったかもしれない。

週刊朝日 2017年2月10日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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