左からHISの沢田秀雄社長、PDエアロスペースの緒川社長、ANAHDの片野坂真哉社長 (c)朝日新聞社
左からHISの沢田秀雄社長、PDエアロスペースの緒川社長、ANAHDの片野坂真哉社長 (c)朝日新聞社
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 宇宙旅行は2017年、もはや夢物語ではなくなる。

 先日、国内で大きな動きがあった。12月1日、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)と航空大手のANAホールディングス(HD)が、宇宙機を開発するベンチャー企業「PDエアロスペース」と資本提携し、23年12月に宇宙旅行の商業運航実現を目指すと発表したのだ。

 計画されている宇宙旅行は「弾道飛行」という方式。ロケットで地上から約100キロの宇宙に到達後、地球の周回軌道には乗らずにその場で自由落下。大気圏中ではジェット飛行モードに切り替えて地上に着陸する。操縦士2人、乗客6人で、料金は1400万円程度を想定しているという。

 今回HIS、ANAHDの2社は計5千万円を出資。ただ、商用運航の実現には約170億円が必要と見込まれ、現状ではまったく足りない。「これまで(応援の)気持ちはいただいても、お金を出してくれるところはなかった。今回の流れで、増資にはずみをつけたい」

 と、PD社の緒川修治社長はさらなる出資者に期待する。宇宙観光アドバイザーの箱田雅彦氏がこう語る。

「宇宙産業への投資環境が整っている米国ではグーグルなど大企業がスポンサーとなり、各企業・団体に『月から映像を送る』などの課題を与え実現を競わせる『賞金レース』が行われている。勝てば数十億円規模の賞金を得られ、それを契機に業界全体でさらに開発が進む。黎明期の飛行機産業と同じ構図。NASAも民間への支援に積極的で、各企業が自力で集めた額と同じだけ出資する方針です」

 一方、国内はかなり後れを取っているという。

「日本では官民ともに宇宙産業に投資するという発想自体が始まったばかりで、まだまだ小さい」(箱田氏)

 この流れを変えるには先行する米国で民間宇宙旅行が実現することが、刺激になりそうだ。米国では現在、ヴァージン・ギャラクティック(以下V社)やエックスコア・エアロスペース社などが着々と開発を進める。

「V社は過去何度も『来年中には実現させる』と表明してきたが、実験機で死亡事故が起きるなどトラブルもあり『逃げ水』のような状況。ただ、宇宙へ到達する技術はすでに確立している。機体を大型化して乗客数を増やし安全性を担保するというビジネス上の課題に取り組んでいる。早ければ17年後半から18年前半には実現性の高い開始時期のめどが見えてくる」(同)

「逃げ水」を踏める日が近づいている。

週刊朝日  2017年1月6-13日号