落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「年賀状」。

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 年賀状をもらうのが好きだ。

 子供の頃、元日の午前中は自宅の郵便受けに張りつくようにして、郵便屋サンが配達する年賀状の束を心待ちにしていた。

 6人家族。父・母・姉3人・私の年賀状を6人分に振り分けていくのは私の仕事だった。

 父宛ての年賀状が一番多い。それだけでちょっと尊敬に値する気がした。

 お年玉付き年賀ハガキが生まれて初めて当たったのは、小学生の時。クラスの担任の栗田先生からのものだ。4等の切手シート。それでも嬉しい。

 引き換えにいくと、ハガキの当たり番号部分を2センチくらい切り取られてしまった。

 子年だったか。計算すればわかるのだが。ハガキをひっくり返してみると栗田先生の手描きのネズミのイラストが真っ二つになっていて、ちょっと悲しかった。郵便局、切れっぱしは返してくれずじまい。

 宝くじは買わないが、いまだにお年玉付き年賀ハガキは大好きだ。一昨年、2等が当たったら結婚式の引き出物のカタログみたいなものが送られてきた。迷った揚げ句、カニ雑炊の詰め合わせをもらった。選んだ私にも責任があるが、2等にしてはあまりに夢がない。

 一方、年賀状を書くのは苦手。もらうのは大好き、書くのは嫌い。自分でも勝手だと思うが、そうなんだから仕方ない。子供の頃は返事が欲しくて、仕方なく書いていたふしがある。

「おもちの食べすぎにちゅういしよう。必ず返事まってます」と書いたのを、

「返事を催促するもんじゃない」

 とたしなめられたことがあった。その時はわからなかったが、今になると「必ず返事まってます」はけっこうなプレッシャーだなと思う。

 何年か前の暮れ、バタバタしていて年賀状を書くのを忘れていた。このまま喪中のフリをしてやり過ごしてもよいが、ちょっと考えた。

 
「馬の絵を描きなさい」

 当時、小学2年生の長男に課題を与えると、動物図鑑をお手本に道産子の絵を描き始めた。リアルを基調にしているが、やはり小学低学年の絵だ。若干バランスが微妙、まつ毛がふさふさして、目がパチリと可愛らしいが、全体的にくたびれた感じの、哀愁にまみれた痩せた道産子ができあがった。

息子「これでいい?」
私「よし、完璧だ。じゃ、何か挨拶文を書きなさい」
息子「あいさつぶん?」
私「パパがお世話になってる人たちへの君からのご挨拶だよ、なんかあるだろう?」
息子「そういうことか……」

 息子は疲れた表情の馬の脇に<今年もいちのすけをよろしくおねがいします 川上◯◯(←息子の本名)より>と書き添えた。

 その年、けっこう仕事が増えた。「痩せ馬をなんとかしてあげなきゃ」と哀れんでくれたのだろうか。息子へのご祝儀だろうか。結果的に痩せ馬が幸せを運んできたのだ。ありがたい。

 子供の写真を載せた年賀状は、とかく「幸せの押し付け」だの「お前の家族なぞ知るか!!」だの言われがちだが、初めから子供に年賀状を書かせるというのは我ながら妙案だったと思う。

 早い話が「泣き売」だが、まぁそれはそれとして……今年もいちのすけをよろしくおねがいいたします。当人より。

週刊朝日 2017年1月6-13日号