作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、次期大統領がトランプ氏に決まった米国での“女性性”について考える。
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子どもの頃、アメリカのドラマといえば「刑事コロンボ」だった。再放送も欠かさず観てきたし、大人になってからも何度も繰り返し観た回もある。
特に好きなわけではないけれど、忘れられない回がある。確かサブリミナル効果を使った事件で、犯人が「アメリカは世界一の商人の国です」というようなことを、誇らしげに言うシーンがある。アメリカとは商談する男たちの国、物を売って我々は豊かな国をつくってきた、というような内容だった。「え? アメリカって商人の国なの?」と、心から驚いたのを覚えている。「商人の国」ということが、「誇るべきこと」なのかどうか分からなかったし、「夢」とか「自由」を誇るアメリカのイメージから遠いように思った。
トランプ氏が次期大統領に決定し、久しぶりに、あの「刑事コロンボ」を思い出した。ああ、そうか、アメリカってやっぱり商人の国だったんだな、というかリアルに商人の国になったんだね、と。さらに安倍首相がさっそく挨拶に行ったトランプ氏の部屋が、ザ・金持ちの家すぎて笑った。風水で金色を勧められたのではないかと思うほど、強迫観念的な金づくし。しかも安倍さんがプレゼントしたのは金色のゴルフドライバー。「(内容を)お話しすることは差し控えたい」と安倍さんが秘密にしたがる会話は多分、カネのことだけ。商談の臭いしかしない。もしヒラリー氏が大統領に選ばれていたら、安倍さんは何をプレゼントし、何を語ろうとしただろう。
とはいえトランプ氏と安倍さんの「商談」を見ながら、そこにある金ピカのテッペンを、私たちが目指すべきなのかという疑問が湧いてくる。理念と思想ではなく、カネとパワーが物を言うようなビジネスマンの世界で、私たちが見上げるべきテッペンは彼らと同じでいいのだろうか。目指すべきテッペンを間違え続けている限り、ガラスが割れることはないのではないか。
世界経済フォーラム(WEF)が調査するジェンダーギャップ指数で、日本は今年、144カ国中111位と過去最低の水準だった。ガラスの天井どころかテッペンを見る場所にすら、私たちは立っていない。その現実と闘っている多くの女性たちが見たいテッペンを、希望を持って描きたい。少なくともそこは、金ピカのオジサンたちの世界ではないはずだ。
※週刊朝日 2016年12月9日号