ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「SMAP」と「大谷翔平」を取り上げる。
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SMAP解散が近づき、ファンたちの声や悲鳴も日に日に大きくなっています。もちろん私も「今からでもどうにかならないものか」と思わないわけではありません。一方で、終わり行く様を、寂しさや歯痒さとともに身の内に刻み込むというのもまた、味わい深いものです。今は何を聴いても、SMAPの楽曲はせつなく聴こえてしまう。しかし、せつなく聴こえることで、楽曲の新たな魅力に出会えたりもする。また、10年後、20年後に振り返った時のことを想像したりすると、それはそれでその瞬間が待ち遠しかったりもします。幸せだった記憶よりも、長く鮮明に残るのが『青春の後ろ姿』(by ユーミン)というやつです。
なぜ私はこのような、ともすれば薄情にも見える、冷静な感情処理ができるのか。それは、好きなアイドルに対する熱量を、誰かと共有してこなかったからです。特に男性のアイドルへの愛好心を詳(つまび)らかにして、みんなで「キャーキャー」言うなど不可能でした。一般的な「アイドル歌手に夢中になる子供」や「スポーツ選手に憧れる男子」とは違う、『男に対するエロ目線』が、私には存在していたからです。ただ、そうした孤独な愛情の育み方をしてきたお陰で、強い執着心と多角的な鑑賞法を確立できました。人は、「好き」の熱量を放出する術や環境がないと、ひたすら自分の中で刻み込み、熟成させ、循環させられるようになります。ファン仲間といっしょに一喜一憂するのも、それはそれで羨ましいなと思いますが、やはりひとりで粛々と向き合う方が、しっくりくる体になってしまったのです。
ここ数年、ファイターズの大谷翔平選手が可愛くて仕方ないのですが、彼を観ていると、あらゆるデータとイマジネーションを駆使して、野球中継をエロに変換していたあの頃を思い出します。単刀直入に言うと、私は大谷くんの裸を見たことがありません。検索すれば、あらゆる画像や映像が捜せるこの時代に、彼の情報の少なさは圧倒的です。基本的に公式な試合、練習、インタビューといった範疇を超えることのない徹底振り。お陰で久しぶりに『独自熟成』の楽しさを噛み締めています。球場に足を運びたくても、これまた北海道がしみじみと遠いところもまた良い。
不便さや情報不足は、人の熱量をより一層掻き立ててくれます。とりあえず今は『ビールかけ』時の、びしょびしょに濡れた大谷くんの姿を『心の表紙』にし、オフシーズンの自主トレお宝映像を楽しみにしている私です。
※週刊朝日 2016年11月25日号