本来、医師と患者は二人三脚で治療を進めるもの。だが、医師の心ない言葉や態度で患者が傷つく、“ドクターハラスメント(ドクハラ)”がいまだ存在する。
難治性の体の痛みでクリニックに通っていた40代の女性は4回目の診療時、自分の耳を疑う言葉を医師から浴びせられた。治療について質問すると、強い口調で、
「あなたが今の医学ではわからない状態になってることを知りなさい! そこでどうするんだ! 俺に何をお願いするんだ!」
と怒鳴られたのだ。
診療室のベッドに横たわったまま体を硬直させる女性に、医師はさらにたたみかけた。
「治療によってどう体調が変化したのか知りたいんですよ! 治療との因果関係を知りたいんですよ! あなたはどれだけ非協力的か」
このような医師の一方的な物言いは20分ほど続いた。ただならぬ空気を感じた夫は待合から診療室へ。付き添われてクリニックを出た女性は涙が止まらなかった。
医療界において、インフォームド・コンセント(説明と同意)が当たり前になった昨今。さすがにこの女性のような度を越したケースはまれだが、医師の“言葉”に傷つき悩む患者もいる。
実際、どれくらいの患者がこのような目に遭っているのだろうか。
医療従事者と患者の間のコミュニケーションギャップの解消や関係構築などに取り組む認定NPO法人ささえあい医療人権センター「COML(コムル)」では、患者からの相談を電話などで受け付けている。2014年度にあった1168件の相談のうち、「説明不足」が290件、「コミュニケーションのとり方」が216件と、言葉に関連するものが多くを占めていた(複数回答あり)。
具体的に医師の言葉に傷つけられた相談事例として、次のようなものがあった。
▽医師の意に沿わないことを言うと急に怒りだす(病院よりは診療所で多い)
▽医師が一言で患者をねじ伏せる(「命を助けたのに、何の文句があるんだ」と言われたケースも)
コムルの山口育子理事長は、こう話す。
「近年、病院は医療安全の対策とともに、コミュニケーションや接遇について厳しく言われており、大きな医療機関では研修を実施しています。昔はよく見られたふんぞりかえっているような医師がいると、トラブルになりますから」
山口理事長によると、言葉のトラブルは、大きな医療機関よりは規模の小さなクリニックで目立つという。
「そういうクリニックでは、院長がいわゆる“お山の大将”なので、ダメ出しできる人はなかなかいない。自らを戒める気持ちを持っていない院長は、患者さんへの対応も良くないという印象があります」