
80年代マイルス最大のウィークポイントはここだ!
Vienna 1989 (Cool Jazz)
前回紹介したギル・エヴァンスの言葉「マイルスはほとんど何も音がないところから始めなければならなかった。そのあと、しだいに自分の表現したい思考にぴったりの音を開発したのだ」ということは、自分自身の音だけでなくグループの音も開発・確立しなければならなかったことを意味する。ものすごく当たり前のことをいうようだが、マイルス以前にこの地球上に「マイルスの音」はなく、マイルスのグループが出すような音を出したグループは存在しなかった。つまりマイルスにとっては各メンバー間の音の「重量・色彩・傾向」といったものが最重要項目であり、それらの音のバランスや対比の妙によってマイルスの音楽は形成され、結果、他を圧する存在感を誇った。
ここからが本題です。しかしながら80年代後期のマイルスは、そういった「音に対する配慮」に欠け、グループ総体のサウンドというものの構築に手を抜くようになった。誤解のないようつけ加えれば、それぞれのミュージシャン単位でこだわりをみせていたが、それらが一体になったときのバランスあるいは相乗効果や機能性といったものを重視しなくなった。わかりやすくいえばマイルス対コルトレーン、ハンクック対ショーターのような、各メンバー間の音の対比やグループとしての総合的バランスに気を配らなくなった。
その象徴が、ずばり、ケニー・ギャレットだと思うのだ。もちろんギャレット個人の問題ではなく、マイルスのグループのなかに置いた場合の違和感こそが問題なのだが、マイルスの音が本質的にそなえている色彩感と重量にギャレットの音は似つかわしくない。81年のカムバック直後は、このような状態ではなかった。マイルスとビル・エヴァンス、マーカス・ミラーとアル・フォスターといった具合にそれぞれの音がさまざまに組み合わせても違和感なく一体となるよう配慮されていた。その「配慮の欠如」こそがマイルスの音楽的老化を感じさせる。ちょっと抽象的な表現になったが、前述のギル・エヴァンスの言葉に従うなら、結論としてはそういうことになる。
しかし結論はもうひとつ用意されている。以上のような欠点や不満があったとしても、マイルスがひとたび吹けばすべては雲散霧消してしまうという揺るがしがたい事実。これこそが80年代後期マイルスの最大の魅力なのだと激しく思う。そしてマイルスはそのことを知っていた。だからこその配慮の欠如だったのだろうとも考える。自分の音をもつことがいかに大切か、マイルスはそのことを伝えようとしているのかもしれない。
【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 Star People
3 Hannibal
4 Jo-Jo
5 Amandla
6 Human Nature
7 Mr Pastorius
8 Tutu
9 Jilli
10 Wrinkle
11 Time After Time
12 The Senate/Me And You
13 Don`t Stop Me Now
14 Carnival Time
15 In A Silent Way
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Kei Akagi (synth) Foley (lead-b) Benny Rietveld (elb) Ricky Wellman (ds) John Bigham (per)
1989/11/15 (Wien)