用意されたコグニバイクに乗ってみた。座席が上下左右に自動的に動いてベストポジションを決める。ペダルを漕ぎ、高橋さんに教わりながらタッチパネルを操作してみる。最初は初級クラス。数字拾い、ジャンケン、数字記憶、色合わせ、動物合わせ、計算の6種目がつぎつぎに始まる。頭を使うとペダルを漕ぐ力が強くなるのか、機械から「もっとゆっくり」と何度も指導された。終わると、正解率と正解時間などから点数が表示される。初級ではまずまずの点数だったので、「もっと難しいコースをやってみたい」と、調子に乗って上級に挑戦。漕ぐスピードが上がり、解答の選択数もぐっと増える。

 数字拾いで「奇数はどれ」と問われる。焦って、3、7、9、6と選んでしまった。一度失敗するとメロメロ。ジャンケンのグーとチョキが示されて「負けるほうは」と聞かれ、グーを選んでしまった。動物合わせではフラミンゴの絵をツルと間違えた。

 もっとも難しかったのは色合わせ。背景や文字の色がくるくると変わる中で、「上の文字の色は何色ですか」と問われる。色と字が混乱して迷う。間違うたびに「えーっ」と負け惜しみの大声が出た。結果は100点満点で39.6や41.6など半分にも満たない。赤点。落第間違いなしだ。それでも、高橋さんは、

「上級は誰でもすぐにはできませんよ。初心者にすれば、上々です」

 3回挑戦し、40分ほどバイクを漕ぎながらテストをした。心なしか前頭葉から頭頂葉にかかる部分が少し痛くなったし、太ももの表が張った。脳に刺激が上がったのかもしれない。朝田医師はよく言う。

「スムーズにうまくいくより、失敗して混乱したときのほうが脳に刺激が伝わりやすい。失敗は脳トレのもとですよ」

 高橋さんによると、利用者には「点数が出るから仲間と競うこともでき、楽しい。運動時間が短く感じる」と好評らしい。

 いま、パソコンで検索すると、音を使った脳トレゲームや脳トレにもなるという格闘ゲームなどがたくさん出てくる。しかし、高齢者は、自宅でIT機器を使わずにできる効果的なアナログ脳トレ情報を欲しがっているに違いない。朝田医師に意見を求めた。

「実は、出版社から頼まれて脳トレパズルを初めて作ったのです」

 10月3日刊行予定の『認知症予防の第一人者がつくった 効く!「脳トレ」ブック』(三笠書房)だ。朝田医師が、認知症当事者がどんな点に悩んでいるかを感じとって作ったという。臨床現場で目撃した高齢化とともに現れがちな失敗を素材にゲーム化した脳トレ本。いよいよ朝田医師も脳トレ戦線に参戦か。ちょっと期待してみたい。

週刊朝日 2016年9月30日号

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