小池百合子氏の圧勝で幕を閉じた都知事選。ジャーナリストの田原総一朗氏は大勝した理由を分析する。

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 都知事選挙では自民・公明が推薦した増田寛也氏や、民進・共産・社民など野党が一致して推薦した鳥越俊太郎氏を破り、政党推薦が一切なかった小池百合子氏が当選した。しかも291万2628票も獲得しての大勝だ。保守が増田、小池と分裂し、増田候補の応援には自民・公明などの幹部が連日登場したにもかかわらずである。

 一般的に考えれば、保守が分裂して競えば野党が一致して推薦した鳥越氏に勝ち目があるとも予想されていたのだが、鳥越氏が獲得したのは134万6103票で、小池氏の半分にも至らず第3位に終わった。

 増田氏の出馬には、少なからず疑問があった。増田氏は岩手県知事や総務相を経験し、その力量は誰もが認めていた。だが、増田氏が現在取り組んでいるのは地方活性化である。おしなべて地方は少子化であるうえに人材が大都市に流出し、人口が減って衰退に向かっている。そこで地方活性化が重要な仕事なのだが、それはいわば東京から人材をいかにして地方に移らせるかということで、極端に言えば東京を寂れさせることが役割である。そんな増田氏が都知事になるというのは、多くの都民にとって違和感があった。

 鳥越氏は立候補の理由として、参院選挙で自民党や公明党など、いわゆる「改憲勢力」が3分の2以上の議席を獲得したことに強い危機感を覚えたことを挙げた。憲法改正の発議が可能になるのだから、リベラルのジャーナリストである鳥越氏の危機感はよく理解できる。だが、憲法改正は国政の問題だ。もし国政に危機感を持つのであれば、むしろ参院選に出馬すべきではなかったか。

 それにしても、小池氏がこれほど大勝したのはなぜなのだろうか。

 女性がはじめて都知事になるというのには意義がある。それに自民党都連が、小池氏を支援した自民党議員は、たとえ親族が支援した場合でも処分するという文書を配ったことで「いじめ」のような構図となり、増田氏の票が減り、小池氏の票が伸びたという事情もあるのだろう。

 しかし、保守分裂選挙で、しかもどの政党からも推薦を受けられなかった小池氏が291万票も獲得したのはすさまじい。このすさまじさに、私はある種の怖さを感じている。

 
 例えば、米国の大統領選挙の予備選で、当初は泡沫と見られていたトランプ氏が予想を裏切るかたちでどんどん勝ち進み、ついに共和党の大統領候補になってしまった。共和党の本流の有力者たち、そしてマスメディアもまったく予想していなかった出来事である。

 その原因は、米国民の多くが、共和党、民主党を問わず、政治も経済も含めた現状に強い不満を抱いていることではないか。ともかく現状を変えたいという憤り、その激情がトランプ氏を勝たせたのだ。

 英国が国民投票でEUからの離脱を決めたのも、これに酷似していて、キャメロン首相(当時)など内閣の多く、そして学者やエコノミストたちも、ほとんど離脱などあり得ないと判断していた。ところが米国と同じく、現状に対する国民の激情がプロたちの予想を大きく上回った。

 小池氏の大勝も、与野党を引っくるめて日本の政治・経済の現状に対する都民の強い不満、言葉に表現できない激情があったためだと私はとらえている。だが、今回の内閣改造を見ると、安倍首相にはどうもその危機感が伝わっていないようだ。

週刊朝日  2016年8月19日号