それぞれの事件との共通点とは…(※イメージ)
それぞれの事件との共通点とは…(※イメージ)

 相模原の障害者施設で起きた戦後最悪の殺人事件。犯罪心理学が専門の桐生正幸・東洋大学社会学部社会心理学科教授が附属池田小事件・秋葉原事件との共通点を分析する。

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 現実の自分と理想とする自己像との間に大きな乖離(かいり)があり、それを何とか埋め合わせたいという願望が引き起こした犯罪ではないでしょうか。「ヒトラー思想」は恐らく、本気で考えていることではないでしょう。後付けの理由だと思います。人を殺すことが目的というより、周囲には到底理解できないようなロジックや合理性が自分の中にあり、それに基づいて行った犯行ではないでしょうか。

 また、できる限りたくさんの人を殺害して、世に大きなインパクトを与えたいという願望があったと推測できます。過去の事件を振り返ると、動機には池田小学校児童殺傷事件に共通する部分があり、行動内容は秋葉原無差別殺傷事件に通じるものがある。池田小事件の加害者は、劣等感やコンプレックスが引き金となり、制服を着た小学生に触発されて犯行に及んだ。秋葉原事件は、“自己表現”の手段としての犯行です。

 これらの事件と今回の事件が大きく異なるのは、加害者が拘束されたときの反応。これまでの大量殺人犯は、拘束されると行動は終了し、4割近くが自殺しています。ところが植松容疑者は笑みすら浮かべ、ヒーロー意識とも呼べる、自分をたたえるような感覚が見受けられます。

 今回の事件が大量殺人に至った要因には、場所が屋内、時間が深夜の就寝中、ターゲットが弱者である障害者という点があります。つまり、可能な限り人を殺害するために計画を立てて犯行に及んでいる。池田小事件で学校のセキュリティーは厳しくなり、秋葉原事件によって屋外の監視の目が行き届くようになった。過去に大量殺人の舞台となっていない、ある意味死角とも呼べる場所を狙って犯行に及んだことにも計画性が見受けられます。

 ここまでの行動に駆り立てられた理由には、タガを外すための薬物の影響、そしてフランスやドイツで起きた大量殺人の影響が考えられます。欧州で発生したテロに乗じた大量殺人を、自己表現のモデルとした可能性もある。身内をはじめ、周囲の抑止力が利かなかったことも大きいでしょう。入れ墨が仕事先にばれたタイミングなど、何らかのきっかけでこれまで取り繕っていた見せかけの自己が崩れてしまうと、早々に新たな自己像を作り上げる必要があります。この新たな自己像が、入れ墨をさらに入れたりと、攻撃性を増す行為に駆り立てていったとも考えられます。

週刊朝日  2016年8月12日号