『ジ・アンイシュード・ジャパニーズ・コンサーツ』マイルス・デイヴィス・クインテット
『ジ・アンイシュード・ジャパニーズ・コンサーツ』マイルス・デイヴィス・クインテット

The Unissued Japanese Concerts / Miles Davis Quintet (EU-Domino)

 1964年7月、我が国の主要都市を巡る「ザ・ワールド・ジャズ・フェスティヴァル」が開催された。マイルス・デイヴィス(トランペット)はモダン派がメーンのAグループの呼び物としてクインテットを率いて初来日する。A~C、3グループからなるプログラムは場所毎に変わったようだ。マイルスのギャラは関係者(メンバー全員、妻のフランシス、マネージャー)の旅費とは別に4都市(東京、名古屋、京都、大阪?)6公演で15,000ドル(540万円)超という破格のものだった。同年の大卒初任給は21,526円(60ドル弱)、想像を絶する高額だ。一方、マイルスは来日しないのでは?という噂も飛び交っていた。噂を他所にマイルスは長旅をコカインと睡眠薬でしのぎ、羽田に降り立つと歓迎陣の前にゲロを撒き散らし、無事に?来日を果たす。春に抜けたジョージ・コールマンの替わりにトニー・ウィリアムス(ドラムス)の強力な推薦によりサム・リヴァースが加わっていた。

 初来日の記録として知られる公式盤『マイルス・イン・トーキョー』(14日/SME)が発表されたのは5年後の1969年だ。その前から東京公演(12日)と京都公演(15日)の録音はマニア間でトレードされていた。近年、前者は『スターライト・イン・ブラック』(Mega Disc)、後者は『マイルス・イン・キョート1964』(Red Circle)として陽の目を見ているが、本作は由緒正しい?ブート・レーベルから出た合併盤だ。1枚目に公式盤に先立つ東京公演が、2枚目に京都公演が収められている。公式盤を含めて順に見ていく。東京公演の音質はまあまあ。マイルスは良く言えばマイ・ペース、悪く言えば自分の殻に閉じこもっている。内向きと言えよう。リヴァースはアウトな流儀を抑えて比較的オーソドックス、《枯葉》は好演だと思う。マイルスは無視を決め込み、リヴァースは借りてきた猫の印象だ。ハービー・ハンコック(ピアノ)は想定内にとどまり可もなく不可もない。

 公式盤の発表当時、既に『フォア&モア』を聴いていた身に同作は物足りなく思えた。怒涛の必殺盤と比べては不当だがマイルスに不満を覚えたのだ。マイルスはカッコいいと思わせつつもプレイにルーチン化というか既視感が拭えず、本気度が低いと感じられた。とはいえ、ゴーイン(強引)・マイ・ウェイぶりは前公演を凌ぎ、アグレッシヴの度合いを増したようだ。リヴァースは控え目が効いたのかミディアム系は上々だが、ファスト系は捉えどころがなかったり上滑りだったりする。アグレッシヴな後者も実に可愛いものだがマイルス者には“潰し”と叩かれ、アウト派には“らしくない”と貶される憂き目を見た。ハービーは《ウォーキン》でリヴァースの後をうけてペースを掴み損なう場面もあるが、総じて前公演よりマシだ。音質は文句なし。初来日時の公式盤ということで敬意を表し、「ライヴ・イン・ジャパン」の“名誉名盤”とするのが妥当なところではないだろうか。

 最後の京都公演だ。音質は芳しくない。内向き、外向きときたマイルスは過激に至る。ファスト系どころかスロウ~ミディアム系でもアグレッシヴ、これでなくてはいけない。来日時唯一の記録《オレオ》では実にスリリング、《ウォーキン》と、これも来日時唯一の記録《セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン》では火炎放射器さながらだ。同じ曲の再演もすべて東京公演に勝る。降参した。既視感などとほざいてすまない。問題のリヴァースも総じてまあまあ、猛然と駆け抜ける《オレオ》はファスト系のベストだろう。ハービーも上々にとどまるものの来日時で一番の出来を示す。なお、かつてトニーのソロで途切れた《ヘヴン》は完奏テイクに聴こえて、そこに頭のテーマを巧妙につなげた代物だ。卑しい小細工だと思う。東京公演の記録は“名誉名盤”たる公式盤にも及ばないが、京都公演の記録はマイルス屈指の熱演だ。2枚組ながら廉価、それだけを目当てに買って損はない。

【収録曲一覧】
[Disc 1]
1. Autumn Leaves
2. So What
3. Stella By Starlight
4. Walkin’ - Theme

[Disc 2]
1. If I Were A Bell
2. Oleo
3. Stella By Starlight
4. Walkin’
5. All Of You
6. Seven Steps To Heaven

パーソネル
Miles Davis (tp), Sam Rivers (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)

[Disc 1] Recorded at Hibiya Koen Yagai Ongaku-do, Tokyo, July 12, 1964
[Disc 2] Recorded at Maruyama Koen Yagai Ongaku-do, Kyoto, July 15, 1964