作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は山尾志桜里・衆院議員を取材するため、初めて予算委員会を傍聴したという。

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 今週発売の「AERA」で衆議院議員の山尾志桜里さんのルポを書いた。2月末あたりから国会議事堂で本会議や予算委員会を傍聴したりなど、永田町に通った。取材中に民主党は民進党になり、山尾さんは政調会長になった。東京オリンピックの招致に関する疑惑が浮上し、オバマさんが広島の平和記念公園でスピーチし、サミットでの首相発言「今はリーマンショック前と似てる」が物議を醸し、首相は消費税増税を延期すると「新しい判断」を下し……まぁ、いろいろあった。

 予算委員会を傍聴したのは初めてだった。中継画面では分からない「サイズ感」に驚いた。近いのだ。質問者と答弁する大臣たちの距離が。ほぼ机一つ挟んで向かい合うようにして、あの人たちは議論している。しかも、質問者側からみれば、目の前には足組んでニタニタと余裕な顔している(ように見える)大臣等、その後ろにはスネ夫みたいな官僚集団がずらりと控えている。そういう人たち相手に、野党の議員はたった一人であそこに立つのだ。しかも、後ろからは男の怒声みたいなヤジ。……恐ろしい職場だ。

 山尾さんは、民主党が政権を取った時に国会議員になった。改めて民主党政権が誕生した2009年の新聞記事や、雑誌記事を読んだのだけれど、これが何とも言えない複雑な気分になるのだった。あの時、メディアはとにかく自民党に怒りまくり、政権交代しなくちゃ始まらねーだろ! みたいな雰囲気に満ちていた。

 
 そんな社会の空気に押された民主党のイケイケな調子に比べ、自民党の自信喪失ぶりは激しくて、今となっては考えられないけど、09年夏の衆議院議員選挙で大敗した後は、「自民党」という名前を変えることも本気で検討していたほどだ。そして7年前のそんな記事を読み続けた後、改めて今の顔ぶれを見て、リアリティがわかない。なんで、安倍さんと麻生さん、二人揃ってそこにいるの?

 それにしても、あの時、“私たち”はいったい何にあんなに怒っていたんだろう。年金が消えた、官僚の不祥事が続いた、いろいろあったのは確かだけど、ハッキリと何に怒っていたのか、覚えている人はどのくらいいるだろう。麻生さんが漢字を読み間違えたくらいで、物凄くバカにしたり叩いたり、顔に絆創膏貼って記者会見した大臣に物凄く怒ったりしてたけど……。

 ……不思議だ。あんなことで怒ってた私たちが、今、なぜ怒らない。なぜ怒りが大きな声にならないのだろう。漢字読み間違えたどころじゃない。嘘、つかれてる。消費税増税延期した。「TPP断固反対」と言っていたのに交渉で大筋合意した。今の憲法じゃ国民守れねぇとか言って憲法変えようとしてる。あの時より、怒ること、いっぱいある気がするよ!?

 時代の空気に任せた怒りではなく、本当の怒りの声をあげなくてはいけないのかもしれない。そうしなければ、私たちの怒りは、あっという間になかったことにされてしまうかもしれないから。

週刊朝日 2016年6月24日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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