「米軍関係者も、サミットを控え、6月5日に沖縄県議会選挙、夏には参院選挙があるなかで『時期がよくない』と言っていた。これで犯人をかばったら、問題が日米地位協定の存在そのものに及ぶ。それを避けるため、米国も今回は低姿勢で謝罪をし、早期解決を目指しているのでしょう」
米国と思惑が一致したのか、自民党の国対幹部も強気の姿勢だ。
「犯人は日本で裁き、罪を償わせる。米軍への責任追及もやる。広島にオバマ大統領が来るからといっても関係ない。官邸、与党は毅然と対応すべきだ」
沖縄では、14年衆院選で四つの小選挙区すべてで与党が敗北していることから、
「この機会に、島尻氏にこの事件を国会で批判してもらったほうが、選挙で有利になる」(自民党関係者)
一方で、安倍政権には別の皮算用もある。ジャーナリストの歳川隆雄氏は言う。
「米軍関係者による重大事件が起きた場合、政府・与党が米国を強く批判するのは通過儀礼のようなもの。それがオバマ氏の広島訪問に直接的な影響を与えることはないでしょう」
今回の事件は、26日に予定されている日米首脳会談の議題の一つとして持ち上がっているが、問題の核心である日米地位協定や米軍基地問題については、突っ込んだ議論は期待できない。
表向きだけの強気のパフォーマンスの裏では、こんな本音も漏れる。
「事件と基地は別の問題。世論の沸騰も一時的なもので、影響は限定的ではないか。沖縄県との基地移転交渉は行き詰まっているが、今回は米軍の自業自得でもある」(官邸関係者)
事件の根本的解決よりもサミットやオバマ氏の広島訪問に悪影響が出ないよう配慮する安倍政権。前出の歳川氏は、その真の狙いをこう見る。
「オバマ氏の広島訪問は大きな外交成果で、現在の50%前後の内閣支持率が60%程度に上昇する可能性もある。安倍首相としては、その状態で参院選に入りたい。そうすれば、自民が57議席以上を得ることによる単独過半数も視野に入ってくる」
だが、安倍官邸の思惑どおり、オバマ氏の広島訪問が成功しても、それで「沖縄の怒り」という日米関係に深く刺さった“トゲ”が消え去るわけではない。(本誌・亀井洋志、西岡千史、秦 正理/今西憲之)
※週刊朝日 2016年6月3日号