七冠のタイトル名をしたためた色紙を手にする井山名人 (c)朝日新聞社
七冠のタイトル名をしたためた色紙を手にする井山名人 (c)朝日新聞社
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 日本の囲碁の歴史に金字塔を打ち立てるタイトル「七冠独占」を達成した名人・井山裕太(26)。日本に約470人いるプロ棋士の中で、一人、別次元の実力だ。負けない井山の勝負魂とは?

 名人、棋聖、本因坊、王座、天元、碁聖、十段の七大タイトル戦がそろって40年。これまで同時にタイトルを保持した記録は五冠が最多だった。井山は3年前に史上初の六冠となり、ついに全冠を独占した。

「信じられない」。十段を奪取して偉業を達成した4月20日、井山は語った。中学1年でプロ入りしたときには考えもしなかった目標。道のりに思いをはせたとき、それは確かに信じられないことだったろう。

 しかし自分の力量への手応えはあった。昨年11月、「棋士人生のなかで一番いい状態」と絶頂期宣言をした。公式戦の連勝を24にのばした直後のことだ。

 この半年ほど、井山は奇跡的な逆転勝ちを何度もやってのけ、周囲からは「神がかっている」という声が飛んだ。「力は出し切れた」「精いっぱい戦えた」などの優等生的な感想が多い井山だが、絶頂期宣言をしたときの以下の言葉は忘れられない。

「相手の隙をぜったい見逃さないという思いで打てている。守りに入ろうとしている相手の空気が少しでも感じられると、チャンスがあると思えてくる」

 恐るべき嗅覚(きゅうかく)と技術を備える。複雑な戦いに持ち込んで敵を攪乱(かくらん)させ、ミスを誘った。

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