告知『奇跡のラスト・イヤーズ』とダラス・ライヴ
Agora Theater (Sapodisk)
ホント?に暑いですね。もう9月ですよ。しかしながらこの猛暑とは、いったいどのようなアガパン現象が起きているのでしょう。こういうときは、「暑い、暑い」と、言わなくてもわかっていることをいちいち言わず(さっき言ったじゃないか)、黙ってマイルスを聴いて、さらに熱くなるというのが、正しい過ごし方というものではないでしょうか。
さて、いきなり拙著の告知で恐縮ですが、今月末には『50枚で完全入門!マイルス・デイヴィス』という、初心者用と謳いながらもかなりマニアックなCDガイド本が出ます(講談社プラスアルファ新書)。よろしくお願いいたします。それから10月に、本筋のマイルス検証新書シリーズの第5弾『マイルス・デイヴィス奇跡のラスト・イヤーズ』が出ます(小学館新書)。たぶんこのコーナーをご覧いただいている方は、先のCDガイドよりこちらのほうに注目されている思います。そこで今回は、少々フライング気味ではありますが、その「はじめに」を転載したいと思います。まもなく命日でもありますので。
マイルス・デューイ・デイヴィス三世は、1991年9月28日、午前10時46分、肺炎、呼吸不全、脳卒中などの合併症のため、カリフォルニア、サンタモニカの病院で他界した。享年65。2日後、9月30日、ミネソタ州ミネアポリスのペイズリー・パーク・スタジオでは、プリンスがマイルスに捧げた曲《レター・フォー・マイルス(Letter4Miles)》を書き、レコーディングした。その曲は、プリンス個人の思い出として、ペイズリー・パーク・スタジオのどこかに眠っている。一説によれば、その後、《マイルス・イズント・デッド(Miles Isn't Dead)》と改題されたという。
約2週間後、10月12日、ニューヨーク、パワー・ステーション・スタジオ。キース・ジャレット(ピアノ)は、ゲイリー・ピーコック(ベース)、ジャック・デジョネット(ドラムス)との通称スタンダーズ・トリオで、追悼の念を表し、トリビュート・アルバム『バイ・バイ・ブラックバード』を吹き込む。キースとデジョネットは、ほぼ同時期にマイルスのグループに所属し、ピーコックは、何度かライヴでロン・カーターの代役をつとめたことがある。
17年後の2008年、ニュージャージー出身の"とれたて"のロック・バンド、ガスライト・アンセムが、新作『ザ・'59サウンド』で、《マイルス・デイヴィス&ザ・クール》という曲を歌う。歌詞の一節にタイトルのフレーズが盛り込まれているだけで、とくにマイルスと関連性があるわけではない。
プリンスからガスライト・アンセムまで。すなわち、創造の象徴としてのカリスマから、マリリン・モンローやハンバーガーのようなアメリカを象徴するアイコンとして、特別な意味もなく新進ロック・バンドの歌詞に登場するようになるまで、マイルス・デイヴィスは、明らかに生死を超えて君臨しつづけた。その状況は、おそらくこれからも変わることはないだろう。
本書では、75年から80年までの6年近くに及ぶ謎の空白、81年の奇跡の復活、そして、ヒップホップを取り入れながら、一方で「初めて過去をふり返った」とされる晩年の「ありえない出来事」まで、マイルス・デイヴィス奇跡のラスト・イヤーズを解く。(以上、『奇跡のラスト・イヤーズ』より)
今回は長くなりました。カンタンではございますが、これから新着CDのご紹介に移ります。おお、テキサス州ダラス、アゴラ・シアターでのライヴではないですか。いま、さも知っているかのように書きましたが、まったく知りません。ダラスといえばケネディ大統領暗殺しか思い浮かばないというテイタラクではあります。
83年ということで、ギターはマイク・スターンとジョン・スコフィールドのツイン・ギター、そしてベースがトム・バーニーという過度期のライヴではあります。音質は良好のオーディエンス録音。『スター・ピープル』が好きな人は、かなり要注目のライヴではあると思います。
【収録曲一覧】
1 Come Get It
2 Star People
3 Speak
4 It Gets Better
5 Hopscotch
6 U'n'I' (incomplete)
7 Star On Cecery (incomplete)
8 Jean Pierre
(2 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, elp) Mike Stern (elg) John Scofield (elg) Tom Barney (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1983/2/1 (Texas)