油田さんが入学したことで、周囲も変わった。それまで1階に一つしかなかった身障者用トイレは二つに増えた。介助者と共に、クラスメートも自然と手を貸すようになったという。

「電動車椅子の音がすると、だれともなく、すぐ教室の扉を開ける。段差がある場所では男子が車椅子を持ち上げていました」(開田教諭)

 特別支援学校時代には、地域の友達はいなかったが、京都高校入学後には、多くの友達に恵まれた。

「友達が手伝ってくれることがありがたかった。でも、私は代わりに勉強を教えたから、ギブ&テイクです」

 と笑う油田さん。修学旅行も楽しみ、どんなところにも出かけていった。

「もっと広い世界を見たい」、そう思うきっかけになったのが、高2の夏の「DO―IT Japan」。東京大学先端科学技術研究センターが、障害や病気のある若者から未来のリーダーを育てようと、2007年度から始めたこのプログラムへの参加で、目が開かれる思いがしたという。

「討論ではさまざまな価値観に触れることができました。福祉制度を利用して、東京で一人暮らしをしている大学生の話を聞いたときには希望が持てました」

 高2の秋、京大の障害学生支援ルームを訪ね、キャンパスを見学したときに京大に「一目ぼれ」。

「支援ルームの対応もすばらしく、雰囲気もよくて、『ここで学びたい』と強く思いました」

 特色入試のことを知ったのはその後だ。「求める人物像」を読み、「ぴったりだ」と思った。提出書類は、調査書、学びの報告書、学びの設計書。報告書には主に、普通高校進学のために交渉したことを、設計書には心理全般や社会の仕組みを学びたいこと、重度の身体障害者が福祉制度を利用して一人暮らしができるか、自分自身で検証したいことなどを書いた。

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