「ロシアで事故時0~5歳の層に甲状腺がんが目立って増えたのは、事故の約10年後からです。一方、事故時15~19歳の層には事故直後から増加がみられ、5年後あたりから目立って増えています。ウクライナ政府の報告書でも事故から5年くらいの間には0歳から14歳の層に顕著な増加は見られず、15歳から18歳の層に増えました。ここだけを見れば、むしろ福島のいまの状況との類似性が目立つのです。それに何より、似ているかどうか言えるだけのデータすらいまの健康調査では提示できないことが、根本的な問題なのです」

 被曝の地域差について前出の津田氏は昨年10月、福島県の調査データを分析し、国際環境疫学会の医学雑誌上で発表した。県内を細かく九つのエリアに分けて分析したところ、甲状腺がんの地域別発生率が福島市と郡山市の周辺で約50倍、少ない地域でも約20倍に上ることがわかった。

 県は大きく四つのエリアに分けて分析した結果として地域別発見率に大きな差がないから、被曝と発がんとの「量―反応関係」が見られないとしたが、津田氏はこれにも反論する。

「放射線量の高い地域では事故から半年後に検査が始まり、遅い地域と比べて6倍の開きがある。つまり検査時にがんが成長している期間に差があるのです。そのため分析に補正をかけました。すると地域差が出て、量−反応関係がものすごくはっきりしたのです」

 もし放射線の影響でないとすると、疑問として浮かぶのは、1巡目で見つからなかったがんが、なぜ2巡目で見つかるのか、だ。

「その間に大きくなったからという説明をしたとします。ただ、2巡目でがんかその疑いと判定された51人の腫瘍の大きさは平均で約1センチ。最大で約3センチに達します。成長が遅いといわれる甲状腺がんが、わずか2年でそんなに大きくなるのでしょうか」(がんに詳しい医師)

 1巡目検査で見落とした可能性も捨てきれないが、津田氏は「もし見落としなら、その確率自体が相当になるうえ、1巡目と2巡目のがん患者がさらに増えるだけ」と指摘する。

 検討委員会のメンバーでもある甲状腺医の清水一雄氏は本誌の取材に対し、こう回答した。

「甲状腺乳頭がんの中には成長が比較的早いものもありますが、一般的には極めて遅く、1年で急速に増大することは考えにくい。ただ小児甲状腺がんとなると、甲状腺の専門家でも経験が少ないため、結論を出せるほどのデータを持ち合わせていないのが実情です」。

(ジャーナリスト・桐島 瞬)

週刊朝日  2016年3月18日号より抜粋

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