「旧来から使われている症候改善薬は、開始当初、症状が改善することがあります。しかし、レカネマブは進行が緩やかになる効果なので、患者さんが実感できるかどうかは予想が難しい。ただ、ADL(日常生活動作)や、QOL(生活の質)が改善したというデータは出ています」(同)
■脳に微小出血やむくみ
レカネマブには課題もある。中でも重要なのは副作用だ。治験中、レカネマブを投与された群で脳に微小出血が生じた人は17.3%(プラセボ投与群9%)、脳にむくみが生じた人は12.6%(同1.7%)だった。
「アミロイドβは脳の実質だけでなく、血管の壁にもたまります。レカネマブを投与してこれが抜けることで、出血やむくみが出るのです。自然に治る軽症例が多いものの、重症化例や、死亡例も報告されています。ただし、死因がレカネマブの影響かどうかは明らかになっていません。現時点でFDAは、レカネマブの添付文書における安全性の記載を変えるには至らないとしています」(同)
この他の重要課題として、岩坪教授は専門医の不足を挙げる。
「レカネマブの投与対象は、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度認知症で、かつアミロイドβがたまっている人です。それを正確に診断するには専門性が必要ですが、専門医の物忘れ外来は数カ月待ちの病院があります」(同)
アミロイドβの蓄積を調べるには、「アミロイドPET」という画像検査が用いられる。公的保険が認められていないため、自費診療で数十万円かかり、実施している医療施設は少ない。
アルツクリニック東京(東京都千代田区)は、アミロイドPETから専門医による診断までを受けられる希少な施設だ。院長の新井平伊医師によると、アミロイドPETには約1時間かかる。より手軽な検査方法が求められるが……。
「腰椎に針を刺して採取する脳脊髄液や、血液を利用してアミロイドβの蓄積を調べる方法も研究開発されています。しかし、どちらもアミロイドPETより精度が落ちます」(新井医師)
今まで同院でアミロイドPETを受けた人は約240人。そのうちアミロイドβの蓄積が陽性だった人は約3分の1、陰性だった人が約3分の2だという。患者や家族のレカネマブに対する期待は大きく、「アメリカに行ってでも使いたい」という声もあるそうだ。