
1973年に放送された、田宮二郎主演のテレビドラマ「白い影」を覚えているだろうか。2001年には中居正広主演で放送された。田宮演じる医師・直江庸介が侵された病気こそ、多発性骨髄腫だ。
多発性骨髄腫は、白血球の仲間の形質細胞ががん化する病気だ。血液がんの中では3番目に多い。60代以上で発症することが多く、患者数は10万人に5人だが年々微増傾向にある。
骨髄には、血液を造り免疫をつかさどる機能がある。がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)があふれる骨髄では、正常な血液が造れない。また、骨髄腫細胞が作り出す異常なたんぱく「Mタンパク」は、高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨の痛みや骨粗しょう症などの症状を引き起こす。病名の頭文字をとって「CRAB(クラブ)症状」と呼ばれている。
原因は放射線の影響や殺虫剤、ダイオキシンなどの化学物質の影響が関連するとの説もあるが、明らかなことはわかっていない。
日本赤十字社医療センター血液内科部長の鈴木憲史医師はこう語る。
「高齢の患者さんは、骨折をきっかけに見つかることもあります。背中や腰の痛みに加えて腎機能の低下や貧血があると骨髄腫を疑いますが、50代以下の若い患者さんの場合には特に痛みがなく、血液検査で見つかることが多いです」
多発性骨髄腫の治療はこれまで、抗がん剤とステロイド薬を併用する「MP療法」と、造血幹細胞移植が中心だった。だが、近年は大きく変わってきた。都立駒込病院血液内科部長の大橋一輝医師は言う。
「MP療法の時代は、患者さんの余命は3年程度であり、治療は延命を目指したものでした。それが00年以降、新薬の登場によって生存率を示すデータが劇的に上昇しました」