この時代を生きている人間を、愛情を持って描きたい(※イメージ)
この時代を生きている人間を、愛情を持って描きたい(※イメージ)

 この時代を生きている人間を、愛情を持って描きたい。映画監督キム・ギドクの創作の根底には、常にそんな思いがある。女子高生オ・ミンジュの死を巡る容疑者と謎の集団との攻防を描いた「殺されたミンジュ」は、監督曰く「韓国では、数多くの悪評に悩まされた(苦笑)」映画だそうだが、目を覆いたくなるような暴力シーンしかり、容疑者と被害者が入れ替わる展開しかり、映像としての鮮烈さは、たとえ100年後の人間が観たとしても戦慄するに違いない。 

「“ミンジュ”とは、人の名前だけでなく、“民主主義”という意味もあります。韓国社会で民主主義が成し遂げられた過程で、私は、韓国は大きな犠牲を払ったと考えています。困難を経て、勝ち得ることのできた民主主義の光、それが見えたような気がしたのも束の間、ここ数年はその民主主義が後退しているような危機感を覚えるのです。映画を通じて、この状況を検証したかった。それが映画を撮るきっかけになりました」

 とはいえ、描かれているのは、韓国社会に対する問題提起だけではない。社会の不正や腐敗のほかにも、国家と個人の関係や、信念とは何か、人間とは何かということまで、想いを馳せざるを得なくなる。

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