ローズマリー・クルーニー/サンクス・フォー・ナッシング
ローズマリー・クルーニー/サンクス・フォー・ナッシング
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 アナログレコード盤とは不思議なもので、斜めに立掛けても平気なくせに、地べたに平置きすると反ってくる。何枚も平積みしてプレスしたほうが、反ってるのも矯正されそうなものだが、そんなことはなくて、立掛けておくほうが反らないのである。

 当店ができて間もない頃、高く吹き抜けになった壁面に、何もないのは淋しいからと、店舗設計者に吉祥寺のジャズ喫茶「メグ」の写真を見せ、レコードを何枚か飾っておく棚を作ってもらった。幅3メートル、縦1メートル程の、ジャズ喫茶にはよくあるやつである。

 三段の枠に余裕を持たせ、18枚のレコードジャケットを立掛けて飾るのだが、枠に4センチほどの奥行きがあり、万が一、地震などがあってもパタパタと落ちてこないように、枠の上側にジャケットの端が引っ掛かるしくみである。

 特にレコードの飾り方に問題があるわけでもなく、そのまま十数年、時々入れ替えながらレコードを立掛けていた。

 オーディオに凝りはじめて、大きなスピーカーを入れると、やたらと店内の反響が気になりだした。ただでさえ上下四方をコンクリートで囲まれていて、吸音するものがほとんどない店内は、風呂場のごとくワンワン響き、パンパンと手を叩けば、ビィーン、ビィーンと尾を引く始末。これはなんとかせねばならん。

 いちばん簡単なのは、カーペットやカーテンなどの吸音性のものを入れることだが、困ったことに当店でそれをやるとなると「毛」がくっついてどうにも具合が悪い。どうしたものかと悩んで壁を見上げると、壁のローズマリー・クルーニーと目が合った。

 いや、正確には壁のロージーは物憂げに斜め天井を向いていた。それだけでなく、18枚全部のレコードが天井を向いている。ピンと来た!

 中段で斜め上を向いてるロージーはそのままで、上段と下段のジャケットが斜め下を向くよう、底辺を棚の奥に押し込んだ。

 横から見ると、上中下、三段のレコードが緩やかなS字を描くように。これが効果覿面!たったこれだけのことで、ここまで変わるかというくらいの激変ぶり。

 オーディオマニアが集まったときに、これをやって見せたら、皆驚きまくって、さっそくアクリルの板等で反射板を自作していたが、わたしはただ立掛けてあるレコードの向きを変えただけである。

 やたら金をかけて大掛かりなことをするだけがオーディオではないのだ。

 全国のジャズ喫茶店主の皆さん、もし貴店にも同じようなレコード棚があったなら、ほんの少しレコードの角度を変えてみるだけで、アンプ取り替えたほどの変化があるかもですよ~。

【収録曲一覧】
1. Hello Faithless
2. The Rules Of The Road
3. Just One Of Those Things
4. All Alone
5. Black Coffee
6. A Good Man Is Hard To Find
7. Baby The Ball Is Over
8. The Man That Got Away
9. I Gotta Right To Sing The Blues
10. Miss Otis Regrets
11. Thanks For Nothing (At All)
12. Careless Love

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