32年間で思い出深い試合は1989年の5月末のジャイアンツ戦ですね。前年にアメリカ留学から帰ってきて5連勝、優勝も経験した。それまで毎年クビになるのが怖くてビクビクしてた僕が、「よし! これからだ」と迎えたシーズン。4月から13試合投げて、まったく勝てなかったんです。「去年の好調は夢か」「まぐれだったんだ」と。自信を失いかけていたとき、ジャイアンツ戦に僕が先発した。どう考えても勝ち目ないんですよ。相手は7連勝中で、先発は桑田(真澄)投手。そんな試合を1対0で勝てましてね。完封です。「これでやっていける! 大丈夫だ!」と確信できる試合だった。試合が終わった瞬間に泣いてました。終了と同時にマウンド上で泣いたのは、あの試合と引退試合の二つだけです。
引退してから、ゆっくりしたいという感覚がないんですよね。もっとやりたかった気持ちのほうがずっと強い。趣味のラジコンしたいと思わないですもん。今は野球に触れていたいなと。たまに球場に来て、練習の声が聞こえてくると、「ああ、もうあの仲間には入れないのか」とさびしくなります。
休むのが気持ち悪いので、引退後は毎日1時間くらい散歩してます。将来野球に携わりたいし、老けちゃいけないなと思ってますので。
この年までやれたのも体を動かし続けてきたから。僕らの世代に伝えたいのは、最初は動かなくても、やり続ければ意外と全盛期と変わらない動きができるということ。毎日少しずつでも苦しくない努力、やれる範囲の努力を続ける。心なんて自分の持ちよう。気持ちの継続よりも、体を動かす継続が大事です。昔できてたのなら今できないことは絶対ないと伝えたいですね。
※週刊朝日 2015年11月13日号