フィルモア・ウエスト19700411
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マイルスが《マイ・フェイヴァリット・シングス》を吹いた?ライヴ
Fillmore West 19700411 (One And One)

 今回ご紹介するのは、これまで『マイ・フェイヴァリット・シングス:ライヴ・アット・フィルモア・ウエスト』(聴けV8:P350)と同じ内容ながら、まったくの別ソースによる新発掘音源(この表現、間違ってはいないけれど、どこか矛盾していますよね)。

 旧来盤との大きな違いをいえば、まず音質が飛躍的に向上していること(旧来盤もそれなりに高音質でした)、そして最後の《ザ・テーマ》のあとにラジオのDJの「フィルモアからマイルス・デイヴィスのライヴをお送りしました」という喋りが入ることでしょうか。補足すれば、この喋りによって、これがまったくの別ソースであり、音質の向上は名前だけのリマスターではないということがわかるわけです。

 さて新規のマイルス者のみなさんにご説明しますが、旧タイトルの『マイ・フェイヴァリット・シングス』はギャグでもパロディでもなく、マイルスがほんとうに演奏していることから名付けられました。たまたま吹いたメロディーが似ていたという次元の話ではなく、マイルスは意図的に吹いている。具体的には、ウエイン・ショーターが書いた《フットプリンツ》のトランペット・ソロにおいて、マイルスがあのメロディーを吹いているのです。以下は想像ですが、おそらくマイルスは《フットプリンツ》と《マイ・フェイヴァリット・シングス》になんらかの音楽的な共通点を見出していたのではないでしょうか。その思いがあって、つい《マイ・フェイヴァリット・シングス》のワンフレーズを吹いてみる気になった。不肖ナカヤマとしましては以上のように推察いたします。みなさんのご感想はいかがでしょうか。

 とはいえこのライヴの魅力は、言うまでもなく、そのようなマニアックな部分にあるのではなく、変型ロスト・クインテットによる熱い演奏が濃縮120パーセントで詰め込まれているところ。これに尽きます。変型ロスト・クインテットとは、正確にはセクステットですが、サックスがウエイン・ショーターではなくスティーヴ・グロスマン、パーカッションとしてアイアート・モレイラが加わっている点にあります。まあわかりやすく言えば、『マイルス・デイヴィス・アット・フィルモア』からキース・ジャレットが抜けたグループということになるでしょうか。

 この時期のライヴとしては公式盤『ブラック・ビューティー』がありますが、あのライヴは不出来極まりなく、ベストはこの日と翌日のライヴになります。要するに『ブラック・ビューティー』だけがダメな子だったのです。ブートレグ・シリーズでフィルモア・ライヴが出ることを願って、いまはこのライヴで燃えましょう。それではまた来週。

【収録曲一覧】
1. Directions
2. Miles Runs the Voodoo Down
3. Paraphernalia
4. Footprints
5. I Fall in Love Too Easily
6. Sanctuary
7. It's About That Time
8. Willie Nelson-The Theme

Miles Davis (tp) Steve Grossman (ss) Chick Corea (elp) Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds) Airto Moreira (per)

1970/4/11 (San Francisco)

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