17年ぶりの対談となった作家・林真理子さんと女優・市原悦子さん。二人のそれぞれのプロ意識が、何気ない会話から浮かんでくる対談となった。
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市原:私は小説を読んでびっくりしてるんです。ああ、やっぱり違うなあと思って。
林:何をおっしゃいますやら。
市原:私たちは、その人物の生い立ちや時代だとかを調べて、外堀を埋めて、ようやく人物が立ち上がってセリフが出てくるんですけど、小説はもっともっと外堀が深くて広いんですものね。
林:私も書斎の中で役者さんになって、頭の中でセリフを言ってるときがあります。自然と出てくるときはいいんですけど、無理やりつくったものは、ギクシャクしちゃいますね。
市原:私、秋元松代さんの戯曲が好きだったんです。彼女も同じことを言ってました。ともかく取材を徹底して心ゆくまでやるそうです。そのあと登場人物の名前が決まる、そうすると戦争中の用水池の汚い水の中からボウフラが湧き上がってくるように、どんどんセリフが飛び出して、書くのが間に合わないぐらいですって。
林:でも、しょせん作家は紙の上の活字ですから、演劇に憧れるんです。私は遠藤周作先生の「樹座」に入れていただいたことがありますけど、立体的に動いている人たちの中に入ってみたいという気持ちがあります。