パソコンの画面上でうごめく無数の細胞。それが時間経過とともに、みるみる小さくしぼみ始め、そして消えていった――。
「悪性の脳腫瘍細胞が入ったフラスコにがん治療用のウイルス“G47Δ(デルタ)”を入れて、時間を追ってその様子を撮影していったものです。まず脳腫瘍細胞の約30個のうちの1個がG47Δに感染し、2日間で全滅しました」
こう話すのは、G47Δの生みの親、東京大学医科学研究所教授の藤堂具紀(ともき)医師だ。ウイルス療法研究の最先端拠点である米ジョージタウン大学とハーバード大学でがん治療用ウイルスの開発に関わり、G47Δを開発。その後、日本で臨床製剤の製造法を確立させ、がん治療薬として完成させた。
現在、がん治療といえば、「手術(外科療法)」「薬物治療(化学療法)」「放射線治療」という3大療法が単独で、あるいは組み合わせて行われる。技術の目覚ましい進歩で治るがんも増え、がんサバイバーという言葉もあるように、がんと共存できるようにもなった。それでも国民の死因の第1位であることはかわらない。
そんななか切望されているのが3大療法に次ぐ治療法の開発。ウイルス療法は有力な候補の一つだ。従来とはまったく異なるアプローチでがんをたたくというこの治療法。どんなものなのか。藤堂氏は解説する。
「ウイルスは宿主の細胞内に入り込み、細胞分裂の仕組みを乗っ取って、増殖していきます。細胞内である程度まで増えると、今度はその細胞の細胞膜を破壊して外に出ていき、また次の細胞に入り込む。これらの性質をがん治療に利用したのが、ウイルス療法です」