
最近はあまり見かけなくなったが、駅で電車の切符を買う際に、「ほらよっ」とばかりに切符が放り出され、釣り銭が勢い余って床に飛散る券売機があった。相手が機械だけに怒る気にもなれないが、もう少し考えて設計できんのかと小銭を拾いながら思ったものだ。
また、コンビニで釣り銭を渡すときに、客の手にチャリンと落とす女性店員がいて、そんなにオイラの手は汚いんかい?!と、ムッとした。いちいち腹が立つので、その店員がいるときはコンビニに寄らなくなった。これは各地で同様の苦情が寄せられ、全国的に問題になったようで、両手でこちらの手を握りながら釣り銭を渡す店員も出てきたが、なにもそこまでしろとは言わない。普通でいいのだ、普通で。
そういえば、コンビニで一万円札を崩すときも少し気が引ける。十中八九ボロボロの千円札で釣りが渡されるからである。新札でくれとは言わないが、少しでもきれいな札を出そうという心がけのある店員には、一度もお目にかかったことがない。
コンビニの商品でも、電車の切符でも、どこで買おうと商品の中身にそれほど差はないし、大幅な値引きがあるわけでもない。それでも、あるところでは快適に買い物ができ、別のところでは不快な思いをしなくてはならない。どうせ買うなら、気持ちよく買い物がしたい、そう思うのが人情ではないか。
ジャズを語るとき、「名盤の価値は音質に左右されない」という場合がある。一千万円のオーディオで鳴らそうと、AMラジオのイヤホンで聴こうと、孤高の名盤『セロニアス・ヒムセルフ』は、少しもその演奏じたいの価値が失われることがない。それはまさにそのとおりである。
だがしかし、それが快適かどうかとなると、話はまた違ってくる。
一万円札が日本政府によってその価値を保障されているように、『セロニアス・ヒムセルフ』もジャズの先達によって強固にその評価は確立している。ただし、シワシワの一万円が出てくるかピンピンの一万円が出てくるか保障のかぎりでないように、『セロニアス・ヒムセルフ』が、良い音で気分よく鳴るかどうかも保障のかぎりではない。
高音質CDというジャンルに対して、懐疑的な立場のわたしであるけれども、「音が良い」というのはじゅうぶんな付加価値であるから、レコード会社はその方向で進めていくべきと思う。復刻CDを安易に低価格で出すばかりでなく、ジャケット写真等を含め、商品としての魅力を高めていく方向で。
高音質化のテクノロジーは、どんどん新録でアピールするべし。ジャズ雑誌で取り上げてくれなくても、オーディオ雑誌に売り込めばいい。「この重低音を再生するのは並大抵のことではない」等、一言オビに買いておけばオーディオマニアは闘志を燃やすことだろう。
ジャズファンというのはニヒルな人が多いから、すぐ結論へと飛んで、ミもフタもないようなことを言いたがるけれど、ミとフタに加えて余りある部分が付加価値で、その部分にこそ、人々は喜んでお金を払うのだということを忘れてはいけない。あっ、ちょっとエラソーなことを言ってしまった。
【収録曲一覧】
1. April In Paris
2. (I Don't Stand) A Ghost Of A Chance With You
3. Functional
4. I'm Getting Sentimental Over You
5. I Should Care
6. 'Round Midnight (In Progress)
7. 'Round Midnight
8. All Alone
9. Monk's Mood