安全神話を誇っていた新幹線内でガソリンをかぶり、火を放つという前代未聞の“自殺テロ”が起こった。71歳の犯人は年金生活に行き詰まった典型的な「下流老人」。東京五輪がある2020年には、29%が65歳以上となるわが国の脆弱さが改めて浮き彫りになった。
「こんな自爆テロのような出来事が、まさか日本で起きるとは……」
林崎容疑者の最後の姿を目撃した会社員の男性(58)は震えながら振り返る。
今回の事件では日本の鉄道の危機管理体制の脆弱さが浮き彫りになった。
正確な定時運行と事故の少なさで、日本が世界に誇る新幹線。だが「今回のようなケースを想定した対策はなかった」(国土交通省鉄道局)のが現状だ。
新幹線の車両には、換気装置はあるものの、火災が起きたときに対応できる排煙設備はない。死亡した桑原さんの死因は気道熱傷による窒息。今回は新幹線を緊急停止して停電させたため、換気装置も止まり、より車内に煙が充満した。
国交省鉄道局の担当者は「停電は他の新幹線が事故車両に近づかないようにするためでもあり、やむを得なかった」と話す。
鉄道の安全対策に詳しい関西大学の安部誠治教授(公益事業論)はこう言う。