「がんを防ぐ夢のワクチン」として全国の女子中高生ら340万人が接種した子宮頸がんワクチン。接種後の健康異常続出で国が「推奨中止」を打ち出してから丸2年が迫るが、国の被害者救済は進まない一方、実態解明に動く医師たちが現れ始めた。

 世界保健機関(WHO)は一貫して「ワクチンは有効」との見方だ。昨年3月、日本の状況について触れるなかで「有効性と安全性を比べれば有効性が勝る」と評価し、「免疫反応などを引き起こしているという科学的エビデンスは存在しない」という声明を出した。

 これを受けて日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会などは同年7月、国に接種の再開を要望した。「女性と家族の将来を守るための社会防衛上重要な手段」とし、ワクチン接種と子宮頸がん検診の二本柱で進めるべきだとの主張だ。

 だが、実際に患者を診る医師の中から真相解明の動きも出ている。

「なぜ最近こんなに10代が多いのか?」

 全身に激しい痛みが生じる難病「線維筋痛症」の患者に若い女性が増えていることに気づいたのは日本線維筋痛症学会理事長の西岡久寿樹・東京医科大学医学総合研究所長だ。働き盛りの女性に多い病気のはずが、調べると、2009年以降に発症した10代の8割が、このワクチン接種後に痛みが始まっていることがわかった。

「線維筋痛症の診断基準は満たしているものの、それだけでは説明がつかない慢性疲労や失神、記憶障害や認知障害など、多様で多彩な症状が重層的に起きている」(西岡所長)

 原因を調べるために昨春、学会と難病治療研究振興財団で「病態究明チーム」を立ち上げた。ワクチン接種を重要な引き金と見なし、接種するまでは健康だった人に表れたさまざまな症状はすべて「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS症候群)」として治療法を探るという。毎月のように医師たちが集まり、自ら診察した症例の紹介やデンマーク、フランスなどで公開された副反応情報を分析。国に副作用を報告した約2500人のデータを精査した結果、「重症者は国の発表した重篤数よりもっと多く、中枢神経関連の症状が最多を占める」などと学会で発表した。

 メンバーの一人で長年、小児の線維筋痛症患者を診てきた横田俊平・横浜市立大学名誉教授が言う。

「5人同じ病状の人が来たら一つの新しい病気を疑うのは臨床医の常識。川崎病もスモンもそれで見つかった。一臨床医の立場から、今まで見たことのない新しい病気が起きているとしか言いようがない」

 厚労省は現在、田村憲久・前厚労相の指示で、前出の副作用を訴える約2500人全員の追跡調査をまとめている最中だ。その厚労省の補助金で今年4月に新たな研究班が立ち上がった。90人以上の重症者を診察してきた信州大学脳神経内科の池田修一教授を中心に、「HPVワクチン接種後の神経障害」を専門に研究・治療する。鹿児島大や愛媛大など8大学の神経内科がタッグを組む。

週刊朝日 2015年5月8‐15日号より抜粋