作家で、女性のセックスグッズショップの代表でもある北原みのりさん。本誌連載の「ニッポンスッポンポン NEO」で、この20年間びくびくしていたのでは?と自分を振り返る。

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 アメリカで初めて、女性が経営するセックスグッズショップをつくった女性デル・ウィリアムズさんが先日、亡くなった。92歳だった。

 もう20年以上も前、私自身がお店をつくる時、ニューヨークにある彼女のショップに行ったことがある。アッパーウエストサイドにあるマンションの一室で、決して広いお店ではなかったけれど、年配の女性たちがゆったりとバイブレーターを選んでいる姿を見て、「ああ私も、こんなお店をつくりたい!」ってはっきりと思った。

 デルさんがバイブを売り始めたのは、1970年代、彼女が50代の時だった。時代は性革命。女たちが、自分の体は自分のものと声をあげ、性を楽しむ自由について語り出した。デルさんも、そんな時代の空気に押されバイブを手に入れようとしたが、実際にバイブを買いに行くと店員の咎めるような視線が気になったという。

 ならば、と、「女性が経営する、女性のためのバイブ屋」を通信販売で始めたのだ。

 私は彼女に直接会うことはなかったけれど、でも、彼女のお店を訪ねて得たものは大きい。ご存知かと思いますが(ご存知ですよね!?)、私は“日本で初めて”女性が経営するセックスグッズショップを開いた女でございます。

 残念ながら日本の法律では、セックスグッズを売るお店には非常に厳しい規制が課せられる。簡単にお店は開けないので、販売は主にインターネットでしながら、事務所にショールームスペースをつくり、女性たちが集まれる場所として開放してきた。

 とはいえ、私はデルさんのように堂々と仕事をしていただろうか。デルさんの訃報を知り、考えている。私はこの20年間、ずっとびくびくしていたんじゃないだろうか。女たちが安心できるスペースを、と思いながら、私自身は、不安だったんじゃないだろうか。

 なぜならこの国で、性の仕事をしているってことは、警察に狙われやすく、そして世間から嫌われることだから。実際、何度か警察の指導を受けたこともある。見知らぬ集団から、お店のサーバーが落ちるような攻撃を受けたこともある。私自身、ネット上で激しい中傷を長年浴びせ続けられている。極めつきは、売り物ですらない物(警察が認定したわいせつ物)を飾っていたことで、逮捕までされた。

 なぜこんなことになったのかを考えれば考えるほど今も苦しいし、この社会への絶望が深まる。私たちの社会は、どこへ行こうとしてるんだろう。

 もちろんアメリカも自由一辺倒ってわけじゃない。州によっては、セックスグッズショップが攻撃されたり、バイブを売った女性が逮捕されたりなどという事件が2000年代に起きている。あら、全く日本と同じじゃない? ちなみにこの州は、ブッシュファミリーの地元、テキサスです。

 テキサス化してきた日本で、女はますます生きにくい。輝ける予感がしない。

週刊朝日 2015年4月3日号

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