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 嵐の二宮和也主演でドラマ化された「弱くても勝てます」(日本テレビ系)の原作者にしてノンフィクション作家の高橋秀実さん。今年銀婚式を迎える妻・栄美さんとは1987年、中途採用された編集プロダクションで出会った。ひと月遅れで新卒で入社したのが栄美さんだった。

――語り合えどもなかなか恋愛モードにならなかった2人だが、転機は入社半年での支社の閉鎖だった。友人相手にやけ酒をあおっていた栄美さんが高橋さんへの不満を口にすると、友人が言った。「そのひとが好きなんじゃないの?」

妻「エッ? そうなんだ、と思い立って、即、彼の部屋に押しかけていったんです」

夫「ドアを開けると、『あなたのせいよ』と抱きついてきたので、抱きしめました。やっぱり俺のせい?とか思いながら」

妻「いったん切り込んだ以上、そのまま通い妻みたいになっちゃいました(笑)。でもこのひと、会社を辞めてからブラブラしていて、働かないんです。部屋の水道が止められたときにはびっくりしました」

夫「電話、電気の順で止まるものですが、水道は止まっても栓を開ければ出る。だから大丈夫と思って放っておいたら、メーターごと外された。トイレが使えない、これはヤバイとなって」

妻「彼、お金がありませんから、私が払いに行きましたよ。あとで請求しましたけど」

――妻はデートらしいものが一度もなかったと憤る。

妻「ご飯は立ち食いそばと定食屋さん。全部、彼のアパートの近所ですから」

夫「いや、その、時代はバブル真っただ中で、みんながグルメとか何とか言ってる時代でしたから、私もデートプランを立てようとは思うんです。ええ、思うんです、が、なぜかその、いつのまにか当日になっていて……」

妻「初めてですよ、こんなに何もしてくれなかったひとは。私の誕生日も忘れていて、やり直し。もったいぶってプレゼントされたのがミニサボテンのセットですからね」

夫「……シャレてて、ひとひねり入れたつもりなんです」

妻「はぁー……。すべて、自分本位なのよ」

夫「面目ない」

妻「……なんでこんなひと、好きになったんだろう」

夫「運命なんじゃないかな……」

妻「というか、お互い都合がよかったのかもしれませんね。私、キャリア志向で、結婚願望もあまりなかったし」

――フリーのライターや編集者として働く妻は25歳になっていた。夫の住むアパートの取り壊しと、妻のアパートの更新が重なったころのこと。

妻「3年付き合っても彼は一度も『好き』とか言わない。だから、『白黒はっきりさせろ!』と迫ったんです。好きか嫌いか、どっちなのと」

夫「……」

妻「そしたら、『す……』って消えるような声で」

夫「いや、あの時は口がこわばっちゃってさ」

――転居を機に、夫は意を決して言った。「じゃあ、入籍しようよ」

妻「『じゃあ』って何? しかも彼、背中を向けたまま言ったんですよ」

夫「あれは、その……。さりげなく言うのがカッコイイだろうと。ハードボイルドだし。そうしたら『もう一回やり直せ!』って怒られまして、正座してやり直しました。以来、『じゃあ』は禁句なんです」

週刊朝日 2015年2月27日号より抜粋