California Cooking!Ricky Woodard
California Cooking!
Ricky Woodard
この記事の写真をすべて見る

 典型的な盲点系アルバムだ。時代が盲点、レーベルが盲点、そしてスタイルもまた盲点的と三拍子そろっている。そもそもリッキー・ウッダードってサックス奏者、ご存知ですか?

 1990年代初頭、このアルバムが新録新譜で出たとき、私は中身が気に入ったので自分から希望してライナーノートを書いたのだが、そのとき経歴は一切知らなかった。要するに「音」だけで気に入ったのだ。

 この時代、既にジャズシーンは混迷の兆しを見せていたが、なんと言うか、タイムマシーンに乗って50年代から登場したのかのごとき典型的ハードバップ・スタイルに驚かされると同時に、そのけれん味のないストレートな演奏に好感を持ったのである。

 まあ、スタイルから言っても話題にはなりにくい。しかし、時代に関わりなく“美味しい”演奏をお届けするのがお役目のジャズ喫茶では、この手のアルバムが実に重宝なのである。

 魅力の一はテナーサウンドだ(曲によってアルトに持ち替えるが、これも良い)。勢いと同時に、若手には珍しいコクのようなものがある。それは、「巧いけれど何の味もない」90年代新人の中では珍しかった。そして魅力の二は、何の疑いもなくブリブリと吹きまくる小気味よさだろう。

 当時も過去回帰的な作品はけっこうあったが、どこか不自然と言うか、「それなりに現代感覚を付け加えてみました」みたいなものが多く、それが裏目に出ちゃって「それなら昔のもの聴くわ」ってことが多かった。そうした演奏の中にウッダードを置いてみると、彼の、良い意味での「時代錯誤」ぶりが正解に見えちゃうから不思議なものだ。

 レーベルもまた注目を浴びにくかった。キャンディドはマニアなら知らぬ者の無い名門レーベルながら、それが「新生キャンディド」としてレコーディングを行っていることは当時いまひとつ周知されていなかった。加えて「旧キャンディド」のチャールス・ミンガスやらセシル・テイラー作品のハードコアなイメージが、これまた裏目に出た可能性も無くはないだろう。新生キャンディドの作品カタログはもっと幅広く、こなれている。

 ともあれ、冒頭に収録されたタイトルトラックを聴けば、「コレはイケる」と誰しも納得されることだろう。ハンク・モブレイ作の好曲《ディス・アイ・ディグ・オブ・ユー》やらデューク・ピアソンの傑作《ジェニー》あたりを取り上げるセンスも、この時代には貴重だった。ハードバップ・ファンにオススメのワンホーン・アルバム。

【収録曲一覧】
1. Wilbur's Idea
2. When I Fall In Love
3. This I Dig Of You
4. Jeannine
5. Jet Lag
6. Day By Day
7. Sashay
8. Jake's Place
9. My One And Only Love
10. Take Your Pick

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼