重症の痔の治療法は外科手術が主流で、1週間以上の入院が必要だ。しかし、近年、注射により内痔核を治療する「ALTA療法」が登場し、痔核(いぼ痔)など痔のタイプによっては日帰り治療も可能になった。また、ALTA療法と手術の併用療法も普及しはじめるなど、治療法は進歩を遂げている。
2005年に登場したALTA療法は、硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸を主成分とする薬剤を内痔核に注射して、痔核を硬く縮小させ、粘膜に固定する。
肛門から脱出する内痔核が適応だが、出血が多い場合にも有効だという。
1個の痔核に対し、4カ所に注射する、四段階注射法という特別な方法でおこなうため、内痔核治療法研究会の講習を受けた医療機関のみが実施できる。
ALTA療法は、入院が不要で外来でもできるため、入院設備のないクリニックでもおこなわれるようになっている。施設によって、2~3日の入院が必要なところもある。
東神戸病院消化器外科・肛門科の高村寿雄医師は次のように話す。
「痔核を切除する結紮切除術(LE)が7~9日の入院を必要とするのに比べると、ALTA療法は仕事を長く休めない働き盛りの人には都合のよい治療法です。また、高齢者や内科疾患があって切除手術ができない人にも適用可能です」
ただ、ALTA療法は内痔核にしか用いられない。外痔核をともなう場合は、外痔核を残すことになるため、そこから数%に再発が起こる。
また、この治療の合併症として、痔核以外に薬液が広がると痛みが起こったりすることがある。術後しばらくしてから投与部位に潰瘍ができ、一時的に出血することもある。
もう一つのLEは痔核を切除する手術で、1960年代から実施されている、評価が定まった方法だ。ALTA療法の倍の年間症例数があり、痔核治療の基本といえるだろう。
LEは直腸から来る血管をしばって痔核への血流量を減らし、大出血しないようにしたあと、痔核を肛門外側からめくるようにはがしていく。手術時間は約30分。腰椎麻酔(局所麻酔)で、7~9日の入院が必要だ。
LEは、根治性が高く、再発がまれで、外痔核があっても適用できる。
「ほとんどの痔核は内痔核に外痔核をともなっていますから、ALTA療法だけでは対処できないことが多くあります。その点、LEはどちらも治すことができます」
と、松田病院(静岡)院長の松田保秀医師は話す。
ただし、痔核が4個以上ある場合や手術範囲が大きい場合は、傷痕が多くなって肛門が狭くなる肛門狭窄(きょうさく)などが起こり、術後の便通に問題が起こることもある。
前述のALTA療法とLEの特徴を踏まえて、併用する施設が増えてきている。
併用療法では、[1]ALTA療法を基本にして、注射できない外痔核の部分をLEで切除する、[2]LEを基本にして、肛門狭窄などの合併症のリスクがある場合にALTA療法を併用する、の二つの傾向がある。医師によって、ALTA療法とLEのどちらを基本にするかは異なる。
岩垂純一診療所(東京)所長の岩垂純一医師は「本来はALTA療法、LEがどちらも同じウェートであるのが望ましい」と言う。
「いまはまだ、医師それぞれの得意な手技に軸足がありますが、今後は内痔核はALTA療法、外痔核はLEと使い分けて同じレベルで治療できる医師が増えてくることを期待したいです」(岩垂医師)
※週刊朝日 2015年1月16日号より抜粋