ジャズを聴き始めてかれこれ半世紀になります。そのうちの45年間はジャズ喫茶店主として毎日6時間以上ジャズに浸っていたのですから、カラダはジャズ漬け。しかし、いまだにジャズに飽きていません。ジャズは聴くほどに味が出る、面白い音楽です。
 とは言え、最初からジャズが大好きだったわけではありません。私も多くのファンの方々と同じように「ジャズって、何でこんなに小難しいんだ」って何度も放り出しそうになりながら、そのたびに「あ、そうかっ」と「聴き所」を掴み、今に至っているワケです。
 この連載では、私の体験をもとに、ジャズの面白さがいまひとつ掴めない方や、ジャズから落ちそうになった方々に、どういうきっかけから道が拓けてきたのかお話しようと思っています。どうか気長にお付き合いください。
 最初にお断りしておけば、ジャズは難しい音楽です。決して誰にでも心を開いてくれる音楽ではありません。ただ、その「難しさ」の中身が誤解されている部分もあるように思うのです。
 「難しさ」には、二通りあるのではないでしょうか。高等数学のように、数式を見ただけでアタマが痛くなるような難しさ。そしてもうひとつ、外国語の聞き取りのように、頭というより「耳」が付いていかない難しさ、もどかしさです。
 もうおわかりですね。ジャズの難しさは、耳が(聴き慣れない音楽である)ジャズの「聴き所」を掴まえるまでに、少しばかり時間がかかることからおきるのです。ですから、即効薬はありません。外国語の習得のように、少しずつ時間をかけて「ジャズのキモ」を掴んでいくしかありません。
 メンドウといえば面倒ですが、樂なところもあります。それは筋トレと同じで、言い方は悪いかもしれませんが、才能に関係なく、誰でもが「正しいトレーニング」を積めばしかるべき筋力が身に付くのです。
 ジャズの面白さはいろいろありますが、まずは「個性」でしょう。それぞれがアクの強いジャズマンたちの個性を聴きわけること。ジャズが面白くなる第一歩は、ブラインドで、つまりジャケットを見ないで誰が演奏しているのか聴き分けることです。しかしこれはけっこう難しい。
 エラそうに言っている私自身、ごくカンタンなミュージシャンでも間違える。というわけで次回はブラインドのコツと、なぜブラインドが出来るようになるとジャズが面白くなるのか、出来るだけわかりやすくお話していきたいと思います。ご期待ください。