相続資産承継セミナーなどの講師を務めるメットライフ生命保険支社本部シニアマネジャーの斉田浩さんは「生命保険を使った相続税対策のメリットは三つある」という。
一つは「非課税枠の活用」。
生命保険の死亡保険金は相続税の対象だが、遺族の生活を守るために「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が認められている。
例えば、妻と子ども2人が遺されたとすると、非課税枠は1500万円になる。
「妻だけが保険金を受け取った場合でも、1500万円分を保険金から差し引くことができます」(斉田さん)
この非課税の範囲内で生命保険に入り、死亡保険金を受け取ることにより、相続税の軽減が図れる。
例えば、法定相続人が3人いて、相続財産が現金3千万円、不動産が3千万円ある場合、一時払い終身保険に加入して1500万円の保険料を支払うと相続財産は4500万円に減る。
つまり、預貯金として持っている現金を生命保険に預けることで相続財産を減らすことができる。
二つ目は「遺産分割を円満に行える」こと。
「一般家庭に多い相続財産は自宅と預貯金、生命保険の死亡保険金です。明確な遺言書がなく遺産分割協議になっても、死亡保険金の受取人が決まっているので相続しやすい」(同)
遺言書の内容が、法定相続人が最低限相続できる財産「遺留分」を侵害した場合でも、死亡保険金は遺留分の対象にならない。遺したい人に確実にお金を渡せるので、親族間のトラブルを回避することができる。
三つ目は、葬儀費用や納税資金などまとまったお金が必要なときに、「すぐに調達できる」こと。
「相続が発生したら、亡くなった方の名義の口座から、預金が引き出せなくなったという話をよく聞きます。これは、預金者の死亡を金融機関が確認した時点で、その名義の口座は凍結されるからです」(同)
名義人の死亡時点で、金融機関の預金は「相続財産」の扱いとなるので、遺産分割協議が整うまでは、預金の引き出しができなくなる。金融機関によって方法は異なるが、預金を引き出すには遺産分割協議書、相続人の印鑑証明書、戸籍謄本などの書類を提出するので、10カ月近くはかかる。
これに対して死亡保険金は、受取人が請求手続きをすれば、5~10日程度で受取人が指定する口座に支払われる。
メリットが多いのは魅力だが、気をつけたい点もある。生命保険は契約者と被保険者、受取人が異なると死亡保険金にかかる税金が違ってくるので、契約の方法には注意が必要だ。
例えば、保険料を負担する人が契約者(保険料負担者)と被保険者、保険金の受取人が配偶者の場合、保険金は相続税の扱いになる。本人が契約者で配偶者が被保険者、本人が受取人の場合、所得税の課税対象になる。相続税よりも所得税のほうが高くなるケースがあるので、手持ちの保険証書をもう一度確認しておきたい。
また斉田さんは、保険の見直しや新規に加入する前に「財産の棚卸し」から始めることを勧める。
「預貯金、株式、不動産、生命保険など各財産がいくらあるのか把握した上で、誰にどの財産を遺すのか、意向を明らかにしておきます。そこで、発生する相続税を把握し、分割に不公平はないか、納税資金は準備できているか確認します。不足があれば、生命保険の三つのメリットを活用して、受取人、保険金額を決めます」(同)
※週刊朝日 2014年12月5日号より抜粋